紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
連絡先:kiikankyo@zc.ztv.ne.jp 
ホーム メールマガジン リンク集 サイトマップ 更新情報 研究所


紀伊半島地域における地震などの様々なリスクを考える

(2)原発事故
  
      --- 浜岡原発の危険性を考える ---
  浜岡原発の危険性については、世界的に最も危ない原発であるとされています(英国フィナンシャル・タイムズなど)。その理由は、周知のように、必ず起こる海溝型巨大地震である東海地震の震源域の中央付近に原発が立地していて、激烈な地震と津波に襲われることが想定されているからです。そのような場所にある危険性の高い原発を多数の反対にも関わらず稼働し、あるいは大量に貯蔵している使用済み核燃料の安全対策をあいまいにしておいて、巨大地震による原発災害が起きたならば、「想定外の大きな地震」であったなどという中部電力の言い訳は一切通用せず、国民に対する重大な犯罪的行為となります。重大な原発事故は100%起こしてはならないことであり、無視できないリスクが想定されるのであれば、廃止すべきものです。
  
 福島第一原発の事故が起こって、それまでの電力会社と原発推進をかかげる経済産業省(原子力安全・保安院)の穴だらけの安全対策が明らかとなりました。巨大地震が原発の真近で発生すれば 、重大な原発事故は必ず起こると考えるのが常識だと思います。それまで電力会社は、「5重の安全策」が講じられている原発は絶対に重大事故は起こさないと繰り返し説明してきましたが、ご承知のような有様です。「技術が成功するためには、体面より現実が優先されなくてはならない。何故なら、自然は騙(だま)せないからだ」というリチャード・ファインマン氏(NASAのチャレンジャー事故調査委員会委員、ノーベル賞受賞者)のことばが心に響きます。多くの国民の、東海地震が起きたら浜岡原発は重大事故を起こすだろうという常識的な直感は正しく、自然の猛威、想像を超える巨大エネルギーの前に、人工的構造物である原発施設や防波壁が破壊され、無事であることはないでしょう。

 1960年代に浜岡に原発を立地しようとした頃には、まだ巨大地震が周期的に繰り返し起こるというような認識がない時代であり、断層が直下にあるなどということも分かっていませんでした。しかし、地震学の進歩によって、今では科学的に明らかにされつつあります。昔とは事情が違ってきたわけですから、中部電力は浜岡からの原発の撤退を決めることを何ら恥ずべきではなく、むしろ、立派な英断であり、静岡県など地元だけでなく、国民全体から感謝され、尊敬されることになるでしょう。
 中部電力は、かつて「四日市公害」訴訟の被告企業の1つであり、住民に公害による死者と多くの健康被害を与え、敗訴するという負の歴史を背負っています。このため、中部電力は、現在では企業の社会的責任として、公害を起こしてはならないということを重視しているのではないかと思います。中部電力の経営理念を見ると、「お客様のお役に立つために、社員の幸福・やりがいのために」を掲げ、行動指針には「私たちは高い倫理観と強い責任感を持って行動し、社会の信頼と期待に応えます」とあります。会社の経営理念等に則して忠実に行動するのであれば、社会に多大な損害と迷惑をかける可能性の高い浜岡原発から撤退し、「お客様」や国民に支持されながら、新エネルギー開発に邁進する姿こそ、あるべき姿ではないでしょうか。「お客様」には、売電先企業だけでなく中部電力管内の多数の一般市民がおり、社会的責任とは電力の安定供給だけでなく、企業活動によって地元、一般市民、地域、国家に迷惑をかけないということも極めて重要なことです。幸い、中部電力は、稼働可能な原発を3基しか有しておらず、これらも2011年5月15日以降停止しています。今後の使用済み核燃料の増加、核燃料の価格高騰と枯渇、発送電分離と電力自由化等を考慮すれば、米国でも電力会社が原発から撤退しつつあるように、中部電力も原発から撤退する方向が正しい道と考えます。

 東海地震の発生が高い確率で予測され、地元はもとより国民に多大な辛苦を与える原発事故のリスクが高まっているので、浜岡原発の廃止を決断し、これを未然に防止すれば、中部電力の将来的な持続的発展と繁栄が約束されるでしょう。しかし、大災害が起こる可能性が指摘されていながら、幅2mの薄っぺらな防波壁(防波堤ではない)の建設といった見せかけの補強工事を無理して実施し、これで原発事故は起こらないと自らと国民を欺いたあげくに、原発事故を起こした場合には、企業の存続が不可能になるばかりでなく、重大な犯罪集団として歴史に悪名が残り、業務上過失の罪で訴追を受けることになるでしょう。名誉ある撤退か、歴史に残る犯罪的企業として名を残し、人々に多くの苦しみを与え、社員や会社OBの生活を破綻させることになるかの選択の時です。企業は、往々にして短期的な経営的利益を行動原理とし、株主は目先の利益を追求しがちです。しかし、短期的な利益だけで判断するのではなく、長期的な企業の存続を優先し、企業は社会のためにあり、国民、地域に貢献していくことこそ企業の社会的責務であるという理念と社会的責任を守っていくことが、現代企業として当然のことと思います。是非、巨大地震の震源域中央にある浜岡原発から撤退し、国民に支持される企業として発展を図る道へと進まれることを望みます。

     
 浜岡原発のどこが危ないのか   
 管首相は、浜岡原発は今後発生する可能性の高い地震、津波に対する安全性が十分に確保されておらず、もし浜岡原発で重大事故が起きた場合には日本社会全体に及ぼす影響が極めて大きいとして、中長期的な安全対策として防潮堤の建設、原子炉建屋の補強などを行い、これが完成するまでの間、全ての原子炉の稼働を停止するように中部電力に申し入れました(5月6日)。中部電力は臨時取締役会を開いて受け入れを決めました(5月9日)。水野社長は記者会見で、浜岡原発の運転停止で、「立地地域、お客さま、株主の方々など多くの方に短期的に多大な迷惑をかけることになるが、同時に、原発の安全強化を図ることが長期的には利益につながる」と述べ、全ての原発を5月15日に停止させました。    
 浜岡原発の再開は、後述するように巨大地震によって、人工的構造物である原発システムが破壊されて 重大事故を起こすリスクが高いことから極めて大きな問題です。福島第一原発の例からも、原発の事故は深刻であるので、事故が発生するリスクが想定されるのであれば廃止すべきと考えます。このことが、たとえ短期的には経営を圧迫することになっても、長期的には、会社、株主等の投資家、周辺地域、電力需要者、国民にとっての利益と繁栄につながると考えます。 
 東海地震による浜岡原発のリスク

 1.津波対策について
 東京大学地震研究所の予測によれば、東海・東南海・南海地震と、その沖合の4連動の地震が起こるならば、従来想定されている津波の2倍の高さになるとされています(2011年
5月23日、朝日新聞)。中部電力は、砂丘と原発の間に高さ18m(東京湾水位基準、浜岡原発は約6mの高さにあるので、建設される防波壁の高さは地上12m)の防波壁(幅2m)を築いて津波被害を防ぐ
としています(中部電力チラシ)。その後、さらにかさ上げ工事を追加して高さ22mにするようです。しかし、巨大津波は前面の砂丘の斜面を駈けのぼって敷地内になだれ込み、あるいは、この砂丘もろともに防波壁が破壊される可能性もあり、過去の大津波でも砂丘が大規模に破壊された事例が分かっています(明応地震の際の砂丘破壊)。また、福島第一原発の5.5mの高さの防潮堤は津波で見る影もなく破壊されてしまい、さらに、世界一のスーパー防潮堤と言われた宮古市田老町の強大な防潮堤(高さ10m、幅3m)ですら木端微塵に破壊されました(2011年3月18日産経ニュース)。巨大津波の前に防潮堤は破壊されてしまうものだということをまざまざと見せつけられましたが、中部電力は幅がたった2mの「防波壁」を築いています。しかし、巨大津波によって砂丘もろとも破壊されるか、あるいは、津波は斜面があることによって2倍〜3倍の高さまで駈け上るということは、今回の東日本大震災でも津波の先が40mの高さにまで達したことを国民の皆が知っていることです。また、津波が砕け打ち付ける時の衝撃力は、津波が満ちて来た時の圧力と比べて遙かに大きく、この打ち付ける波で鉄筋の建物が破壊された状況も見られています。
 更に、原発に押し寄せる津波は海側からだけではなく、浜岡原発の側面や背後からも回り込んで原発敷地内に押し寄せ浸水するので、原発の敷地を取り囲むように防波壁を築く必要がありますが、そのようになっていません(下の図;朝日新聞2013年12月21日から引用)。
     2013年12月21日記事追加
    海側の黒太線が防波壁工事
 しかし、防波壁を築いたとしても 、防波壁の基盤が砂地であり、津波の威力による破壊だけでなく、大地震の衝撃そのものにより、防波壁自身の重みによる沈下・破壊の可能性があり 、津波被害のリスク(津波が原発を襲うというリスク)を除去することはできません。防波壁の設計段階で、マグニチュード8.5〜9の直下地震と大津波に対して、これが破壊されずに防波壁として機能するものかどうか、あるいは、破壊されるリスクについて、これまでのような自画自賛ではなく、原発あるいは中部電力に利害関係を持たない第3者の専門家グループに厳密に評価してもらう必要があります。中部電力が言うように、砂丘のかさ上げと防波壁の建設等を行えば、原発再開の条件をクリアしたことにはなりません。更に、大量の使用済み核燃料が、原子炉格納容器内ではなく、単に建屋内のプールに貯蔵されているわけですから、東海地震によってプールの損傷や冷却装置の機能がストップすれば、容易に放射性物質が外部に出てしまうことになりますから、原発の再開よりも使用済み核燃料の安全対策を優先すべきです。

 2. 地震対策について
(1)海溝型地震の他にも活断層による危険性がある
 
浜岡原発の2km東には活断層帯(白羽断層等)が分布しており、海溝型地震に伴って活動する可能性が、産業技術研究所・活断層センターの吾妻ら(2004)によって報告されています。この活断層は5000年前に2.7m、2400年前に2.8m、1000年前に1.6m隆起した跡が確認されています(東京新聞、2011年5月23日)。この活断層の地上部の長さは短いが、海底にも活断層が伸びている可能性があります。浜岡原発の近くで、2m以上の隆起を起こすほど活断層が動けば、浜岡原発に大きな影響が生じます。  
 また、浜岡原発敷地内には数本のH断層が存在し、この1本は5号機のタービン建屋直下にあり、他の断層も原子炉建屋の直近に分布しています。中部電力は敷地内の基礎岩盤は大地震に伴って破断することはなく安全であるとしていますが、基礎岩盤の間にあるH断層は大地震が起これば基礎岩盤よりも物理的に弱い部分であるので破断を受けやすく、この場合に5号機のタービン建屋のみならず隣接する原子炉建屋にも影響が及ぶ可能性があります。東日本大震災に伴って、今まで動かないとされていた福島県浜通りの断層が動いた事例もあります(4月11日)。
 更に、2009年8月11日の駿河湾地震(マグニチュード6.5;御前崎市の震度6弱)の時に、5号機では、約400mしか離れ ていない4号機の2倍以上の揺れが観察されましたが、これは5号機の地下300〜500mに軟らかい地層があり、これが揺れを増幅させたとされています(中部電力発表)。浜岡原発では、駿河湾地震による震度6弱程度の揺れによって、46件に及ぶ故障が生じ、揺れの大きかった5号機の故障がこのうちの25件を占めるなど(広瀬、2010)、浜岡原発の中でも5号機は特に地盤的にも大きな問題を有しています。5号機は、管首相の浜岡原発停止要請に基づき5月14日に停止しましたが、冷温停止中に主復水器に海水が混入していることが検知され、その後の調査で、43本の細管が破断し、 主復水器に400トンもの海水が混じり、原子炉にも5トンの海水が入り、更には、これと関係して排気フィルターにコバルト58が付着していることが判明しました。このように浜岡原発5号機は、2005年に営業運転を開始した比較的新しい原子炉ですが、地盤が悪く、事故が続いており、巨大地震や、直近の内陸型活断層の活動等によって事故を起こしやすく、海水流入で原子炉内部に錆が生じているなど、極めて危険性の高い原子炉であるので、再稼働させずに、必ず廃炉にしなくてはなりません。

(2)大地震による原子炉システムの破壊が重大事故に繋がる危険性
 東海地震による浜岡原発の危険性は、津波による電源喪失、地震による原子炉建屋の損傷に重点が置かれ、管首相の中部電力への原発停止要請にもこのことが入っています。これらは福島第一原発事故からの教訓からのことと思います。しかし、福島第一原発事故の直後に、東京電力及び官邸の危機管理センターは、「原発の安全神話」に惑わされたのか、電源さえ確保できれば原子炉の冷却システムが再稼働できると思い、近隣から全力を上げて50数台も電源車を集めましたが、ほとんど役に立たないばかりか時間を空費したのではないかとされています(NHK総合テレビ「シリーズ原発危機 第1回」2011年6月5日放送)。福島第一原発1号機では、大震災後に非常用電源が少しの間稼働したようですが、すぐに止まってしまいました。これは、非常用電源(発電機)を冷却するポンプが故障して(あるいは流されて)、すぐに発電機がオーバーヒートしたと思われ、また、非常用電源を動かす燃料タンクも流されてしまいました。肝心の原子炉を冷却する水を循環させるためのポンプも津波でさらわれて無くなっていました。原発の冷却システムを稼働させるために、原子炉本体だけでなく、配管、配線、非常用電源、ポンプ類、燃料タンクなど多数の機器類がシステム化されて複雑に結合・配置されており、システムとして機能することが必要です。福島第一原発の事故後に、原子力安全・保安院が、全国の原発を調査したところ、冷却水を循環させる大きな発電能力のある通常の非常用電源の他に、同等の予備の電源が用意されていたところはなかったとのことであり、重大事故に対する無防備ぶりが露呈しました。また、原子炉冷却に関連するシステムの一部が故障した時に、これに置き換える部品の準備があるのかということも問題です。それにも増して、大地震によって、システムの複数の不特定箇所が同時に破壊されるシビア・アクシデントに対して短時間(数時間以内)で対応(修理あるいは部品交換)することは事実上困難であり、大地震においては、むしろ、そのような事故の方が起きやすいと考えられます。福島第一原発の例は如実にこのことを示しています。シビアアクシデントに対する想像力の欠如が、福島第一原発事故を起こしましたが、事故前には、敢えて、そのことを想像したくない、物事を面倒にしたくないといった経営者と現場責任者の日本社会にありがちな行動も大きな原因と思われます。浜岡原発においても、そのまま当てはまると思います。
 東海地震という巨大地震が起これば、必ず浜岡原発で故障・事故が起こりますが、どこで、何が故障しているのかを突き止め、電源を回復させ、故障個所に応急対応し、修理を数時間以内に成し遂げるということは、余震と津波が継続的に襲う最中であり、また、暗闇の中で放射能汚染を測りながら行わなくてはならず、非常に過酷で困難な作業となります。この時に、それを指揮し、あるいは事故対応に精通した技術者が負傷あるいは死亡するということも起こり得ます。いずれにせよ、原子炉冷却が間に合わなくなりメルトダウンを起こすいう大きな危険があります。また、原子炉から放射能が漏れ出し、原子炉建屋に入れず、作業が出来ないという事態も想定されます。福島第一原発1号機の場合には、原子炉冷却ができなかったために、大震災発生からたった5時間後にメルトダウンが起こったとされており、余震の最中に短時間で必要な作業を完了できずに、メルトダウン、水素発生、ベント、水素爆発といった今回の事故が起こったわけですが、浜岡原発においても同様の重大事故に陥る危険性が高いと考えざるを得ません。巨大地震が原発を襲った場合に、原子炉、原子炉と配管の結合部、配管、冷却水循環ポンプ、その他重要機器類、それらを結ぶ電気配線、非常用電源と燃料タンクなど、どこに故障が起きてもおかしくはなく、複合的な故障が重大事故に繋がる危険性があります。
 福島第一原発事故で東京電力は「原発の安全神話」を念頭に、「今回の事故は『想定外の津波』に襲われた」ために、非常用電源2台が同時に失われて起こったとしています。「原発の安全神話」には大地震によって原子炉は絶対に破壊されないということがあるかと思います。原子炉自体は鋼鉄で丈夫に出来ているので地震には強いと考えられますが、原子炉と配管の結合部や、配管部分は損傷しやすい可能性があります。福島第一原発の事故では、1号機をベントする前の3月11日の夜に、既に、原子炉建屋内で300ミリシーベルト/毎時の放射能が観測されており、放射能を含んだ水蒸気や水が配管や弁から噴き出ていたとされています。これは、冷却系が停止したために原子炉内の圧力が高まって、地震で損傷を受けて物理的に弱くなった部分が拡大し噴出したとも考えられます。また、福島第一原発の事故をみると、1号機等ではベント(原子炉の爆発を防止する為に原子炉内の水蒸気を外部に放出すること)を行ったにも関わらず、原子炉から漏れ出て原子炉建屋内にたまった水素が爆発して建屋の屋根を吹き飛ばしました。これらのことは、津波の影響と言うよりも、地震によって、原子炉と配管との結合部、あるいは、原子炉と繋がる配管の一部が損傷して水素ガスが漏出した可能性が高いと考えられます。
 このように、福島第一原発の場合は、地震による衝撃(ガル)が想定内の値であったにも関わらず、原子炉に外部から電気を供給するための鉄塔が倒れて外部電源が失われたこと、更には、原子炉と配管との継ぎ目あるいは配管の一部が損傷を受け、放射性物質や水素が漏れ出すといったハード部分の損傷事故が起こったことは現象的にも明らかです。しかし、東京電力は今回の事故は想定外の津波に起因するものであり 、地震そのものによりハード部分の損傷が生じて、放射能汚染に影響したということを認めようとしていません。これは、「原発安全神話」(地震だけでは大事故は起こらないという)に今だにこだわっているためと思われます。その理由として、想定内の地震の強さで、放射能汚染事故が生じたとなると東京電力の責任が一層重くなることと、他の原発への影響を考えてのことと思われます。

 中部電力もまた、高い防波壁を作り津波を防ぎ、他に多少の安全措置を行えば原発は安全であるといった、「原発安全神話」にとらわれた考え方をしており、福島第一原発の事故をもっと直視すべきです。福島第一原発の事故を検証する委員会が、国民に愛想をつかされた原子力安全・保安院の下敷きに沿った審議ではなく、それらを排除した形で審議が進められることを期待したいものです。
  
 浜岡原発は、東海地震の震源域の中央付近に位置していることから、福島第一原発の時よりもはるかに強い地震に襲われる可能性があり、その場合に、配管を含めた原子炉システムに重大な損傷が起こり、あるいは、原子炉の冷却のための作業が原子炉建屋内の放射能汚染等により困難となり事故対応が遅れてしまうといったリスクを否定できません。しかし、どのような場合でも中部電力は想定外であった
とは弁解できません(想定されていることですから)。地震と津波による原発事故のリスクをほぼゼロとするためには、際限なく原発システム、建屋、防波壁堤等を補強することが必要となるので、コスト的に合わず、技術的にも不可能であることから、早々に見極めを付けて、浜岡原発から撤退することが合理的で賢明な選択肢となります。

 今回の福島第一原発事故をみると、非常用電源の停止後5時間でメルトダウンが起こったとされています。メルトダウンが起こるような状況下では、原子炉圧力容器内部の温度が上がり、水蒸気と水素が大量に発生し、圧力容器内の圧力が増し、原子炉そのものの爆発を防止するためにベントが必要となります。今回の事故処理で、現場の努力によって1〜3号機のいずれでもベントが成功し、原子炉爆発による一層深刻な放射能汚染が防止された点は、炉心爆発よりはよかったかもしれません。しかし、原子炉圧力容器内は、通常運転中でも70〜80気圧あり、その上、更に冷却機能の故障により限界まで高まった炉内圧力を低下させるためのベントによって、放射性物質の混ざった水蒸気を高く聳え立つ排気搭から猛烈な勢いで噴出させたこと自体が、広域に放射能汚染を起こす原因となったと考えられます。ベントをすればよいということではなく、ベントをせざるを得ない状況に陥った場合は、ベントによって広域に放射能汚染が起こるのだと考えるべきです。原子炉建屋内に漏れ出た水素ガスの爆発による放射能汚染と、ベントによる放射能汚染のどちらが高濃度汚染に関係したのかは、今後専門家に解析してもらいたいと思います。
 地震等によって冷却水の循環が何らかの理由で一時的に止まり、原子炉圧力容器内の温度が上がり、発生する水蒸気の圧力が一定以上となる事態になれば、爆発事故が起こらなくても、ベントせざるを得なくなり、ベントだけでも相当程度の放射能汚染が起こるということを十分に認識する必要があります。すなわち、原発事故による放射能汚染は起こりやすいということを理解する必要があります。
「原発事故 リスクの高い原発は廃炉にすべきだ」へ

原発関係の記述で明確な誤りがございましたら、下記メールアドレスまでその内容をご指摘下さい。

      E-mail:  kiikankyo@zc.ztv.ne.jp

「ホーム」へ 
「紀伊半島地域における地震などの様々なリスクを考える」へ
「紀伊半島地域に大きな被害をもたらした歴史上の大地震と津波」へ 
「明応地震による伊勢湾沿岸の津波による被害」へ 
「原発事故 リスクの高い原発は廃炉にすべきだ」へ
   「紀伊半島に比較的近い原発リスト」へ