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昔、と言っても戦後しばらく経ってのことだけど、口径6.5インチのスピーカーが主流で通称6半と言っていた。 戦後のラジオの普及は8インチのマグネチック・スピーカーを使った並四だった。レコードは蓄音機の時代だ。 それから間もなく、スーパー・ヘテロダインという高性能の、いわゆる5球スーパーが並四と入れ替わった。その5球スーパーに使われるスピーカーが、6.5インチ口径のフィールド型ダイナミック・スピーカーだった。 フィールド型はマグネット部分に永久磁石を使わず、鉄心にコイルを巻き電流を流して電磁石としていたが、じきに今使われている永久磁石、パーマネント型ダイナミック・スピーカーに変わっていった。口径はそのまま6.5インチ、6半だった。 このころからレコード・プレーヤーと一体になった電蓄が流行りだし、少し大型になると8インチもよく使われるようになった。でも普通のラジオは6半で、テレビが出始めたころは14インチ(14型)が普通だったように、ラジオは一番標準的なサイズだった。 私は6半にこだわったわけではないが、昭和31年か、32年頃に音楽を聴くために買ったのが6.5インチのユニットだった。ナショナルだったかパイオニアだったか忘れたが、クライスラーの横型のエンクロージャーに入れたのを昭和40年まで使った。 その後2〜3年は音無の時代を過ごし、BGM用にと思い買ったのが山水のSP-30だった。斜め格子のグリルが実にきれい。 それほど音まで気にせずのBGM用に徹して(?)使ってきたが、ある程度の自分の好みを求めてそろえたのが1980年頃だった。理想のジムランことJBLには手が出ずKEF303を買ってしまった。なかなかバランスのいいスピーカーで癖もなく、ジャンルを問わず満足な音を楽しませてくれる。オーディオショップで選んでいたときに聴いたタンノイの音は、クラシックだったら迷わず「これだ」ということも、そのとき頭にインプットしていた。 数年前退職を機に買ったのは、当時買えなかったJBLとタンノイだった。昔のジャズを思い出すのにはJBL。なじみのジャズ喫茶店で、膝を突き合わすような場所で聴いた楽器直接音はJBLが再現してくれるのだ。また、腰を据えて聴きだしたクラシックには、迷わずタンノイを選んだが、以前「これだ」と記憶にとどめたのは正解だったと音が証明してくれる。ホールで聴くような錯覚を興させる不思議なスピーカーだ。 でも、机の下でひっそりと隠れている山水の6半を思い出し、SP−30をわが家の檜舞台に立たせてやった。 昔、BGMとして聴いていた程度の音量で鳴らせてみた。タンノイやJBLと比較するのもやぼではあるが、この音量なら結構なものだ。いや、立派なものだ。 以前から私の持論は、スピーカーは中音がきれいだったら、しっかりしたアンプで鳴らしてやれば確かな音は出る。そのスピーカーの力を100パーセント引き出せたら、後は好みの問題だ。こんな勝手なことを言っていたが、まんざら的はずれでもない。 今、6半を鳴らしているアンプは1年ほど前に作ったKT−88シングルだ。感度91dbのSP−30を鳴らすのには十分な力はある。見事なマッチングだ。最近はハイエンドの小型スピーカーがたくさん出ているが、1本9,900円のこの6半はハイエンド特有の癖(?)はないが、まったく気取らない自然の音を聴かせてくれる。タンノイでもJBLでも味わえない音が楽しめる。並ぶ店で食べるこだわりのラーメンと、たまに食べるチキンラーメンとの違いみたいだ。それなりの良さがあるようだ。 オーディオファイルには笑われるかも知れないが、この6半で古いディキシーやコンボ編成のジャズを楽しむとき、初恋の彼女に出会った心境だ。
(2006.9.11)
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