吾輩のネコである  
吾輩のネコである

 吾輩(わがはい)の猫である。
 名前はまだ無い。
 どこで生まれたのかとんと見当がつかぬ。

 どこかの小説の書き出しではない。
 もうかれこれ16年になると記憶しているが、迷い猫が我が家にやってきた。
 その頃は愛犬ブサイクがいたし正直、猫は嫌いだった。犬派とでも言うんだろう。猫を見ると石をぶつけたくなる。
 迷い猫は台所の窓枠に飛び乗り、家の中をうかがいながらか弱く「にゃ〜」と窓猫をやっている。
 よく見ると首輪もしている。明らかに野良じゃなく迷い猫だ。
 猫は嫌いだから表に出て追っ払うが、また戻って「にゃ〜」だ。
 そのうちに娘が飼おうと言い出す。だめだ。うちにはブサイクがおる。がんとして許さなかった。
 数日、そんなことが続くと情もわいてきたのだろう、家には入れない条件で飼う許しを下した。
 そうしたらどうだろう、軒下に置いた猫用の箱の中でご出産だ。1匹2匹、ええ?3匹。まだ目も見えないのが3匹できちゃった。
 軒下では横殴りの雨だと濡れる、テラスの雨の当たらないところに移してやろうと、新しい箱を置いてやったら、赤ん坊猫をくわえて引っ越しだ。
 やるもんだな、と見ていたら赤ん坊が出す排尿を親猫がなめ取っている。
 そういえば猫の砂がいるんだろうかと、ホームセンターで買ってくると、ちゃんと使い方も知っており、子猫にも教えていた。
 名前は「ネコ」だ。ときどき「ニャンコ」とも呼ぶが、名前はない。
 住まいはテラスの屋根の下で暮らしている。家の中には入れてもらえない。でも機嫌良く住み着いている。
 あれからずいぶん経つが、いつどこで生まれたのかが分からないから、何歳になったのか分からない。
恐れていた化け猫の年齢には達しているはず。
 それが未だに子猫みたい。鳴き方も昔から変わらず「にゃ〜」だ。
 我が家も新築でテラスはないが、ウッドデッキがあるので「ネコ」もそちらに移っている。
 子猫みたい、というのは鳴き方だけではなく、夜になると住み家にしているウッドデッキを駆け回っている。
 段ボールの爪研ぎや、私たちの履き物を蹴散らしながら元気そのもので、なかなか化けそうにもない。

 今年の冬、寒かろうと部屋に入れテレビを見ていたら煙が上がる。
 何
 ネコが電気ストーブにぴたっとくっついている。煙が出てるぐらいだからもう遅い。横っ腹に穴が空いたように、毛が焼けてなくなっている。
 えらいことしたなあ、治らせんぞう。ネコとの会話だ。
 猫は「にゃ〜」ばかりではなく、いろんな鳴き方でしゃべってくる。機嫌の悪いときなど「ふん」と聞こえることもある。
 人間年齢にすると90歳を超しているが元気だ。

 これが、吾輩の猫である。

(2009.7.2)