〜中身の一部です〜

はじめに

 温泉は私の生活の一部として普通にありました。生まれてすぐ温泉だったのです。
 わが家には風呂がなく、すぐ近くの日帰り温泉が日常のお風呂でした。
 今から百年余り前に新しく湧きだした榊原新温泉です。
 生まれたての温泉が、あふれるように直接丸い浴槽に注がれていました。
 その温泉は浸かるとお湯はしっとり、肌をさするとツルツル、それが温泉だと思っていました。でも
 大きくなって他所の温泉に行ってみるとそれぞれ違った肌の感触です。どこの温泉に行っても自慢があって、その効能などを聞かされます。
 効能は温泉教授の松田忠徳先生にお任せして、地元の温泉を専門家でもわからない裏通りの温泉を紹介させていただきます。
 本は読むことはあっても書くことは初めてです。同じ文言が重なったり、読みづらい所も多々あると思いますがお許しください。
 私は子供のころから何か作ることが好きでした。親に聞くと晋作という名は、晋は「すすむ」、「すすんで作る」のだそうです。意識したことはなかったけど、目の前にあるものはまず壊す。そして元通りにする。でも目覚まし時計で、それをやると必ずネジが余ってくる。そんなことから子供のころはラジオ少年でした。五球スーパーを何台作ったことやら、戦後のラジオ普及には少しは役立ったようでした。
 ラジオに興味を持った私は、とうとうラジオ放送局の技術に席を置きましたが、昔の長男の悲しさ、家を離れるのではないかと心配する親に転職を強いられ、一日中机の前や事務の仕事は苦手な私が、地元の郵便局長になったのです。その頃の郵便局は郵便、貯金、保険とひとりで三つの仕事をする効率的なものでした。でも田舎の郵便局はもうひとつ、地域の人たちと仲良く、地域に役立つ仕事もありました。私は四つめの仕事に興味を持ち、生まれ育った地域の仕事が面白くなり、ずいぶん楽しませていただきました。
 榊原には何があるのだろう。
 地域の先輩などに聞くと「何もない」。誰に聞いても同じ返事で、何もない榊原か・・・。でも温泉があるけどと聞くと「温泉はあるけど、ないない」です。
 子供のころは大人の人から昔話をよき聞きました。今、それもない。
 そうだ、郵便局から外に出よう。お年寄りの家を訪問して昔話を聞かせてもらい、それを紙に書いて郵便局のカウンターに置くと、大変な人気となり新聞やテレビでの話題となったのです。
 もちろんその中にも温泉の話が出てくる。だんだん物知りと言われると、そのようにしなければなりません。そして定年退職するやすぐ公民館長にさせていただくと、さっそく公民館講座に「榊原ものしり講座」を作って、講座生と一緒に榊原のことを調べることになり、その講座も二十年以上続いています。でもいつまで経っても専門家ではありません。
 松田忠徳先生という専門家と、ど素人の書く榊原温泉で、ほんとうに知られていない榊原温泉が、少しでも知っていただければいいなと、初めてペンを持ちました。
 温泉の、その効能は文字で書けますが、お湯の感触や人の温もりまでは書き表せません。古代から湧く温泉で、この温泉を使った禊ぎなど、知っていただくのは肌で感じていただくことです。
 ちょっと不便な場所ですが秘境でもありません。この本と併せて榊原温泉を確かめてください。