行政の文化化とパートナーシップ推進化の一環として、多文化共生の自治の姿を構築する

総務部パートナーシップ推進課長 西川 秀夫  

 関西では古くからオールドカマーと云われる旧植民地出身者とその子孫である在日韓国・朝鮮人や中国人の割合が高く独自のコミュニティ等を抱えて生活しているものの、従来から、彼らは棲み分けや同化政策により見えない存在とされ、在住外国人問題そのものも在日韓国・朝鮮人問題に特化されていました。しかし、近年になって(1990年頃から)地域社会に新渡日外国人(いわゆるニューカマー)といわれる南米や東南アジア諸国等から渡日した外国人の居住者が急速に増加してきています。バブル経済がはじけて不況になってからも外国人の定住化の増加は続いています。そして阪神大震災では、その外国人施策の貧弱な実態が顕在化しました。それでも日本で働く外国人の数は、日本の少子高齢化による人口減少により今後も確実に増えることが予想されます。さらに一口に在日コリアン、在日チャイナと言っても今日ではオールドカマーに属さない新渡日の人も増えていますし、民団や朝鮮総連の組織に属さない在日コリアンも増えています。(私の課のことですが平成14年に朝鮮通信使の全国大会を近江八幡市で開催したときには韓国の民団や朝鮮総連の人々やそれらの組織に属さない在日コリアンの方々にもご協力いただき大変お世話になりました。)また、帰化や国際結婚によって外国にルーツをもつ日本国民も増えています。

 大都市でもない本市のような地域社会でも徐々に国籍の多様化が進んでおり、自治体の国際化施策は従来の国際親善や国際交流から在住外国人の日常生活や教育問題等を視野に入れた「内なる国際化」へと転換すべき時期にきていると思料します。

 本市では平成2年まで在住外国人人口の80%を占めていた韓国・朝鮮人が平成3年からの急激なニューカマーの増加により、現在(153月)では20%まで下がっています。その結果、外国人問題が日本人対在日という1対1の関係から1対多数へと変質してきました。それまでの行政の在住外国人問題も教育分野に特化していたものから総合的に検討すべきものとなりましたが、いまだに本市行政ではニューカマーはもちろんオールドカマーも含めた外国人問題への対応は対処療法を行っている状態です。そのため今年を本市では「行政の文化化元年」と唱われたのを契機として私の(PSS)課での「行政の文化化」の課題は「多文化共生社会」を地域で目指すこととし、今年の課方針としたいと思います。なぜなら「行政の文化化」は何も景観(風景)まちづくり条例や文化庁のオリジナルではないと思うからです。

多文化共生社会とは、一言で云えば在住外国人と日本人がともに地域住民として安心して暮らすことのできる社会のことです。「多文化」または「多様な文化」とは、様々な国・地域から移り住んできた人たちの文化を指します。広い意味では民族、宗教・習慣だけでなく男女、年齢、健常者障害者、ひとり一人の個性を含めます。いろんな文化・個性を持った人々が、違いの大切さを認め合いながら、社会の一員として活躍することだと考えます。世界では多文化主義(マルチカルチャリズム Multiculturalism)という言葉があります。「主義」では難しいイメージがあるので、日本では多文化共生という言葉を誰かが考えました。また共生(パートナーシップ)とはエスニックの異質な集団に属する人々が互いの文化的違いを認め、対等な関係を築こうとしながら、共にパートナーとして生きていくことです。多文化共生は単なる平等でもなく、*同化してひとつの文化になるものでもなく多様な文化があり続けることを認めることだからです。*(子どもの頃、茶碗を置いたまま食べたり、片膝立てて飯を食べていると朝鮮人みたいに行儀の悪いことをするなと叱られた経験のある方もあると思いますが、大人になって韓国に旅行に行って、それがむこうでは正しい作法だということを知りました。ブラジル人が窓からゴミを捨てていることでも同様な理由(自然・土に返す)があるのだと教えられました。それで以降は一元化(視点)で見ることは危険だなと思いました。)

 ともあれニューカマーを含む外国人の定住化は近年とみに進展しており、当然のことながら好むと好まざるとに関わらず自治体は居住する外国人を行政の対象とせざるを得ません。これは自治体に内なる国際化が要請される消極的条件です。けれど自治体が内なる国際化をさらに推進すべき積極的条件があります。それは法(憲法)の下に平等とは言うものの現行法では権利の享受者としては日本国民しか認めておらず、外国人を原則的に排除しているが故に、外国人には生存権や社会的経済的権利ばかりでなく人権も基本的には認められないという信じがたい事態(外国人の入居や入浴お断り、外国語のみで書かれた防犯カメラ監視中の張り紙など)も生起しているからです。

 それに対して、地方自治法では自治体は住民の安全、健康および福祉を保持する義務があります。ここでいう住民には生活の拠点を置く外国人も当然含まれます。さらに地方分権時代になって、主体的に自治体の担う役割も増えていますし、分権化の流れのなかで地域社会変容への対応という点では、その自律的で主体的な政策形成こそが自治体自身に問われているのです。さらに付け加えるならば、これからの自治体政策において問われざるをえないのは「差異の政治(=自治体間競争)」であろうと認識しているしだいです。

 ある社会にエスニックな少数者集団(マイノリティ)と多数者集団が併存しているときには、マイノリティの権利は程度の差こそあれ侵害され、同化を求められるのが通例です。そのことはマイノリティの社会的経済的権利だけでなく、アイデンティティすなわち文化的権利まで否定する行為であることを、私達は解放・人権教育のなかで学んできました。それを私達はさらに「多文化共生教育」へと進化させる必要があります。内なる国際化の最終目標は、普遍的な人権確立が図られた豊かな個性あふれる地域文化の創造にあります。日常文化における普遍性への指向と多様な文化の並存が地域文化の独自性を生み出し、地域が持っている歴史性と風土性の刻印を受けて新たな文化(多文化)が発展するのです。それを私達(PSS課)は本当の意味での近江八幡市の文化行政=「行政の文化化」と呼びたいと思います。

 内なる国際化は、情報や環境及び協働、分権化とともに今日の自治体の重要な課題と位置付けられます。しかし、自治体の国際化の取組みが単なる友好親善や交流の枠内に止まる限り、それほど重要な課題とはいえません。現在、自治体の国際政策の新しい課題として登場してきたのは在住外国人に対する施策と国際協力であり、より実質的な対応を必要とします。例えば、外国人との共生を考えれば福祉や労働、教育、保健、医療等様々な施策の見直しが必要になり、最終的にはこれまでの日本的な社会システムの見直しさえ必要となります。国際政策の究極の課題はボーダレス化、グローバル化する国際社会の動向を踏まえ、新しい市民社会の仕組みを作ることであり、それに対応した行政のあり方を追求していくことです。国際化に対応した行政の変革を私達は「行政の国際化」と呼びますが、これは「行政の文化化」と同じことです。外国人にどのようなサービスを提供するのかを(受ける側の視点で)検討するだけでなく、現在の行政や社会の仕組みが国際化に対応できるか否かについて見直しや検証が必要となります。例えばISO(国際標準化機構)への対応もその一つですし、地方分権におけるキーワードでもある自治体や市民との役割分担(パートナーシップとコラボレーション)もその課題の一つでしょう。少なくとも、PSS課では内なる国際化と多文化共生社会の形成の意義を十分認識しており、新しい時代の国際政策を進めていくために、妨害にも屈せずに在住外国人向けの日本語の識字教室や母語教室を開催し続けてきましたし、外国籍市民ネットワークを立ち上げて多文化共生の推進に努めてきたところです。次の段階としては、政策推進会議でも諮りましたが、市の多文化共生を推進するための基本理念を定め、行政や市民の責務を明らかにするとともに基本計画や相談体制など施策の推進体制を総合的に定めた「多文化共生基本条例」の制定を推進していきたいと考えているところです。このことは外国籍市民ネットワークからの要望だけでなく全ての在住外国人の願いだと思うからです。さらに例えれば箸の(外国製品であれば)こけた事まで国際担当のPSS課の仕事だ(国際とか外国人と名がつけば全てPSS課に振ってくる意識)とする庁内の意識を変える必要もあります。いまの時期「行政の文化化」が市長から提唱されたのは絶好の機会であると認識します。在住外国人にも「終の栖」と思ってもらえる多文化共生の地域まちづくりを(市民、職員)共に目指したいと思います。