● エッセイ ●
春まだ浅き道東の宝捜し旅?

 〔恥ずかしいひとり噴水〕
 1992年5月2日、子供達が学校から帰ってくるのを待ちかねて、道東の旅にスタートしたのは 午後2時であった。いつものように愛車ボンゴワゴンには、2枚の敷布団と6枚の毛布、それに4日間 の食料を詰め込んだクーラーボックスが2個、大型の中華なべに飯炊き用と汁用の計3個の鍋、衣類 少々と数冊の本。さらにビデオカメラとカメラ。4人の子供達は思い思いに手提げ袋に本や顕微鏡や グラブやお菓子などを持ち込んでいる。ワゴン車の後部スペースとフルフラットにした座席の下に キッチリ詰め込んでいけば、けっこう入るものである。あっ、忘れてた水タンク。20リットル入りの 白いポリタンクは文字通り命の水である。注ぎ口にコックのついてあるやつで、車の後ろに積んだまま リアの扉を開ければ直ちに使えるすぐれものである。
 この水が、炊事に洗顔に洗い物にと大活躍するのである。ただ、使っているうちにだんだん勢いが なくなってチョロチョロという感じになってくるのが難点であるが、こんな時は、蛇口から思いっきり 息を吹き込んでやると中の圧力が高くなって『えーい、これでもか!』とばかりにジョボジョボジョボ ッと威勢良く飛び出してくる可愛い奴である。たいてい炊事時はビールを飲んでいるので、これをやる たびに、飲料用の水の中にアルコールが吸収されて、濃度がわずかずつ上がっているのは確かである。 ところで、酒はキリンの『ビール工場できたて出荷』350ミリリットル1ケースと、4リットルの焼酎 ジパングを1本積み込んだ。

道央自動車道を札幌南インターから入って約1時間、苫小牧東インターで降りる。途中のデジタルの 気温表示は8度Cとなっていた。例年よりは少し低いとラジオは言っている。もっともこの連休の天気 予報は全般的に曇りがちであって期待しないほうが良い。車は苫小牧から太平洋を右にしながら鵡川町 まで走り、そこからは鵡川沿いに上流の穂別町まで北上する。
 穂別町は地質学的に非常に重要な地域であると言うことだが、川の真中に火山をかたどった大噴水が 作られており、上空20メートルくらいの水しぶきをはでに噴き上げていた。しかしその割には町中に 人がほとんど見えずひっそりとしていて『さあイキオイよくドッといってみましょう、ドッと!』と 噴き上げてはみたものの、拍手のひとつもなく、なんとなくひょうし抜けの恥ずかしい”ひとり噴水”であった。

(次のページへ)

topボタンの画像
[メニューへ]
nextボタンの画像
[次頁へ]