| ● エッセイ ● |
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〔スッピンの摩周湖と湯ケムリの硫黄山〕
”霧の摩周湖”で有名な摩周湖は、今日はキリもカスミもミジンもなく、スッピンの姿を惜しげも
なくさらしていた。深緑の水面とそこに映る残雪の霊峰の、実像のほうに目をやると、その山はかつて
円錐形の火山であったが、噴火によってその頭の部分がそっくりブットンでしまったということを如実に
物語っている。一度車に戻り、次の第3展望台からもう一度見る。少し角度を変えたもうひとつの
摩周湖も、やはりスッピンでアイヌがカムイ・ト(神の湖)と呼んでいたとおり神々しい姿を見せていた。目を180度反対の方向に移してみると、遠くに残雪の藻琴(モコト)山、その手前に屈斜路湖が 横に広がって湖面の中央に中島がポッカリと浮かんでいる。そのまた手前にはゴツゴツの岩肌をあらわにし モウモウと白い湯気を吐き続ける硫黄山が見える。標高700メートルからの大パノラマである。
硫黄山は名のとおり硫黄臭に包まれた山である。あちこちからシューシューと黄色い湯気が上がって
温泉が沸いている。「たまごだよー」「おねえさん、どおー、たまごだよー」「去年から待ってたんだよー」と5個 400円の温泉卵売りが、いいかげんな声をかけている。 「ゲホッ」「ゲホッ」「くさーい、へんなにおいー」と言いながらも、子供たちは硫黄くさい湯気で 自分の姿が見え隠れするのをヨロコンで走り回っている。 足元の”温泉の水たまり”みたいなのに指先をつけてみるとけっこう熱い。ついでにその周りの土手状に なっているところを足で蹴り割ってみた。岩だと思っていたそれは、中は真黄色の全部硫黄であった。 さっきの”指先だけ温泉”は、なかなか良い加減であったので、やはりこれは全身を浸さなければ という使命感のようなものが体中を満たし始めた。考えてみると、家族6人風呂なしの三日目の昼過ぎ であった。ちょうど近くに川湯温泉があり、ここの町営の銭湯(もちろん本物の温泉)で、一人100円、 家族全員600円で「フェーー」と極楽気分となった。
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