● エッセイ ●
春まだ浅き道東の宝捜し旅?

 〔厚岸(アッケシ)の親娘〕
 厚岸で朝茹での毛ガニと生のアサリを買って北上する。最初の予定では根室半島の先端、納沙布岬と ハナサキガニの命名の由来となった花咲港を訪れるはずであった。
 花咲港を訪れたい理由はもうひとつある。時を遡ること200年。1792年9月3日、ロシアの 使節アダム・ラクスマンが、その10年前にロシア領に漂着した日本人を伴って、この花咲港に来航 したのだ。
 この日本人こそ、井上靖の『おろしや国酔夢潭』の主人公、大黒屋光太夫である。6月には映画も 封切られる(主演:緒方拳)ことでもあり一度は、光太夫の目になってここを見たいと思っていたのだ。
 この楽しみは次の機会に譲って、今日は道東を北上し、標茶(シベチャ)を経由して弟子屈(テシカガ) 摩周、屈斜路(クッシャロ)へと回る中身の濃い旅をすることになった。
犬  この提案は、私の勤める会社のお取引先である厚岸港の三村社長を訪ねて、机の上に地図を広げて 親切に教えていただいたことによる。この方は顔に似合わず本当にやさしい心の持ち主なのである。 話しているうちに親父と話しているような気持ちになって来るのだ。船が趣味、という潮焼けした 赤黒い顔のあちこちに生傷の跡が残る、初見では誰が見てもコワイと思う歴戦戦士のような風貌なのである。
 「こんにちわ」と笑顔でお茶を入れてくれた可愛い女性がこの人の娘さんであるが、社長と親しく 付き合わない限り、この親娘の線をつなげることは難しいであろう。
 弟子屈から国道243号線を右に外れて、道は徐々に上り始める。両側にはしぼりたての生牛乳を 飲ませてくれる店が点在した。ナマチチを飲みたいのをがまんして、車はどんどん峠を上っていく。 やがて摩周湖の第一展望台の入口に近づいた。ところがここが満車である。しかたなく、そこを通り 過ぎて左側に路上駐車する。  

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