商業文芸誌評


この記事は2026年5月発刊予定の本誌80号『あるかいどへの反響』欄転載されます。本誌掲載に際しては万全を期しておりますが、誤字脱字等に気づかれた方は発行人までお知らせくださいこの段階でミスをご指摘いただけると誌上に反映させることができます。

 

文芸思潮99号 全国同人雑誌評 南崎理沙

「あるかいど」79号(滋賀県)
 前号と同じく、物語全体を客観的に見た上で表現することに長けた作品が揃っていた。今号は、それに加え洗練された構造と、選び抜かれたモチーフがあった。切塗よしを「ラストダンス」では、タンゴというモチーフを印象的に使いながら、随所にインパクトのある台詞を散りばめている。「I タンゴを踊った兵士」では、カロルードヴジヤクは、ソ連軍の特定支援要員としての任務をこなしていた。負傷者輸送や物資の受け渡しといった要務を任され、戦場と街を何度も行き来する日々が続いていた。物語の舞台は、雪が降りしきる日の列車だ。そこで出会った女とタンゴを踊る。誰のことも信じていない名前を捨てた女と、「戦地の兵士は踊らない」と話すカロルが、ダンスを通じて「音楽の外、歴史の外、名前の外」へ行くことを願う。「けれど、それは恋でも情熱でもなかった。むしろ、それらの手前で凍り付いたものを、そっと解かし合うような動作だった」という表現が美しい。そして、次の章「Ⅱ そしてぼくは空と踊る」では、第Ⅰ章の物語が、Ⅱ章の主人公の叔父によって語られた物語だとわかる。叔父は、ロシア語の翻訳家である。その情報によって、やや陳腐な第Ⅰ章の語り囗や描写は、翻訳らしさを表現していたのだとわかる。主人公の父の死や、母の容態の急変、恋人との別れなど様々なことがダンスと折り重なるようにして立て続けに起こる。名前を捨てた女が、第Ⅱ章では、「音楽の外、歴史の外、名前の外」で影響を及ぼしている。様々に張り巡らされた伏線と、一貫したタンゴというモチーフ、そして考え抜かれた構造により本作には哀しくも甘美な質感が宿る。作者は文芸思潮98号同人雑誌評で取りあげた「駝鳥の見る夢」という作品でも物語構造を詳細に詰めていたが、「駝鳥の見る夢」の見せ場は不気味さだった。だが、今回は全くトーンが違う。表現の幅が広い作者だ。準推薦作とする。

神戸新聞 2026年3月22日付 同人誌 葉山ほずみ

「あるかいど」79号木村誠子「さよならブラG」。両親が離婚し、看護師の母と暮らす11歳の森野音は、転校も胸の内を自分に吐き出さないとやっていけない母のことも理解しているつもりだった。
 コロナ禍で緊急事態宣言が出た頃、漂う閉塞感で息苦しくなり自転車で飛び出すと、道に黄色と黒の鳥が落ちているのを見つけた。「とらつぐみかな」と髭の老人が声をかけてきた。「G」と名乗り、息絶えそうな鳥を引き取ろうかと提案、音は彼の、緑で溢れる庭に招かれた。
 翌日、鳥を埋葬するため音はGの庭を再訪、母の承諾も得て交流が始まる。祖父のいない音と妻に先立たれ孫のいないGは歳の離れた友だちに。課外授業として音にさまざなことを教える。ある日、Gは音の母を招き、明日、母のいる屋久島に行くと伝えるが……。
 緑の庭を中心に作品の根底には生と死がやさしく瑞々しく描かれる。ラスト、Gからの最期の贈り物に涙する読者は多いのではないだろうか。

図書新聞 同人誌時評 2026年3月7日付 越田秀男

 エッセイ『ほな、ね』(西田恵理子/あるかいど79号)。母は91歳、まだ杖も使わず歩けるが、認知症で、岡山に呼び寄せて3年、コロナ禍も静まり、母と私の最後の遠出。堺に住む母の兄の嫁、娘と神戸で四人が合流し、会食。兄妹は富農の生まれだが、学童のころ父を亡くし、お嬢様育ちの母親は子を皆親戚に預けてしまい、兄妹は恨み節、だからその分仲良し。久しぶりの集合で和気藹々、皆よく食べた。帰り際、伯母が母に「もうこれが最後や」、母は伯母の顔をじっと見て、顔を歪め「うぅぅ」、叔母「ほな、な」、母「ほな、ね」││「ほな、またね」にはならなかった。

樹林 小説同人誌評 47 細見和之

『あるかいど』第79号掲載の、木村誠子「さよならブラG」は、11歳の女の子「オト」と「G」と名乗る老人の心の交流を、オトの視点で描いた六〇枚弱の優れた作品。コロナ禍の日々、オトは看護師をしている母親と二人暮らし。すこし前に父と母が離婚したのである。コロナで学校が休みになった日、オトは自転車に乗っていて、傷ついたクロツグミを拾う。そのとき老人が寄って来て、クロツグミの様子を見てくれる。そこからオトとGのゆたかな交流がはじまる。Gの家の庭でペンキを塗ったり、食事を一緒に作ったりの日々。しかし、Gはある日、遠い故郷に帰ってしまう。絵本「せいめいのれきし」やレインドラムなどの道具も活きている。読んでいて、Gとの日々がもっと続いてほしいとオトとともに祈りたくなる。なお、タイトルの「ブラG」は、Gがうれしいときに「ブラボー」と口癖のように叫ぶので、オトが秘かにつけていたGのあだ名なのだろう。

なお、同誌の後半では、亡くなった同人、飯塚輝一の追悼特集が組まれている。クリスチャンで聖書を深く読み込んでいた飯塚、そういう部分に、元気なあいだに私はもっとふれておきたかった。

文芸思潮98号 全国同人雑誌評 南崎理沙

「あるかいど」78号は、物語全体を客観的に見た上で表現することに長けた表現が光っていた。切塗よしを「駝鳥の見る夢」は、駝鳥というモチーフとストーリーを自然に組み合わせるテクニックが巧みだ。主人公である野上は、入院をした藤崎に頼まれて紫山小夜子に会いに行く。藤崎は昔美大を志望していて、小夜子の裸婦画を描いてみたいという思いを抱いた。その際はその願いが叶わなかったが、もう一度そのチャンスがほしいということで藤崎に小夜子に会ってほしいと頼んだのだ。この物語の鍵は、駝鳥の生態にある。紫山ダチョウ牧場に訪れた野上は、二代目牧場長の妻である真奈美と出会う。そこで、駝鳥の生態の説明を受ける。真奈美によると、駝鳥は家族単位で行動し、争いが終わって両家が離れるといつの間にか家族構成が入れ替わっているらしい。配偶者が変わっていたり、相手方の子どもが加わったりするそうだ。駝鳥は記憶力が弱いから家族の顔を覚えられないということだ。読者は、作品を読み進めるにつれて主人公にも同じようなことが起こっていると確信する。そして、作品は「小夜子の冗談めかした言葉を聞いた瞬間、ぼくは小夜子の顔も真奈美の顔も思い出せないことに気づいた」という決定的な言葉で締められる。顔を覚えられないということが物語の核心だと読者に即座に気づかせることなく段々と流れを加速させる技術が光る。また、タイトルは作品の内容を的確に表しており、それでいて種明かしではない面白さがあった。

三田文學 2025年夏・秋合併号 新同人雑誌評 加藤有佳織

住田真理子「不機嫌の系譜父・木辺弘児」(『あるかいど』78号)を興味深く読みました。

季刊文科101号同人雑誌季評 越田秀男

 夫の介護に追われるなか96歳の母が入所したばかりの施設で急死。母の生き様を回顧しながら、自分達の日日を振り返った「高原あふち「日日是日日」(『あるかいど』78号)。主人公と夫はケーキ屋を立ち上げて実績を積み上げ、ネット販売に乗り出し、大忙しの最中、夫が病に、多発性脳梗塞、そして後遺症との格闘。リハビリは大切だが、元に戻ることはない。廃業。ディケア施設で夫はプリンを作った。夫「やっぱり難しかった。でも、美味しいって拍手してくれた」。
 ※今、生きている、という実感。

季刊文科101号同人雑誌季評 谷村順一

 切塗よしを「駝鳥の見る夢」(『あるかいど』第78号)は、悪性リンパ腫を患い、死期の迫った元同僚の「ある願い」を叶えるために奮闘する無職の「ぼく」が主人公だ。市役所庁舎の小修繕を十二年にわたってひとり担ってきた嘱託職員の「ぼく」と同僚の藤崎は、庁舎の建て替えのため「ぼく」の契約が打ち切られてもなお親しく付きあう間柄だ。末期を迎えた藤崎の「ある願い」とは、かつて暮らしていたダチョウ牧場の牧場長の娘、同い年の小夜子の裸婦画を描くこと。国立工業高等専門学校から美術大学編入のため、等身大のビーナス像でデッサンをつづけるうち、「生身の人間をモデルにして、真に美しい裸婦画を描いてみたいとの思いが抑えきれなくなった」藤崎にとってモデルは小夜子以外には考えられず、小夜子もその願いを受けいれるのだが、デッサン開始早々、牧場長に見つかってしまう。書きはじめたばかりのスケッチブックは引き裂かれ、ダチョウ牧場への出入りを禁止されたばかりか、高専の学部長の「本当に不純な動機はなかったのか」との問いに、「小夜子のおっぱいが見たかつたよ!」とこたえてしまい編入試験の話までも立ち消えとなってしまったことが、藤崎にとってはいまでも心残りであるらしい。はたして「ぼく」は藤崎の願いを叶えることができるのか。極端なまでの記憶力の乏しさゆえ、家族構成が変わったことにさえ気づかないというダチョウに重ねながら飄々とした筆致で綴られる「ぼく」、藤崎、小夜子、そして小夜子の義妹真奈美の人生はほろ苦くもあり、かすかな希望を孕んでいる。

神戸新聞 2025年9月24日付 同人誌 葉山ほずみ

「あるかいど」78号住田真理子「不機嫌の系譜父・木辺弘児」。作家だった76歳の父が急死。浴槽内での急性心不全だと診断されたが、私は父の死は自殺ではないかと考えている。その理由は、白い封筒に入っていた年賀状代わりの手紙に「人類が成長を止め崩壊に向かうグラフ「人類があと百年ほどでその後カタストロフィーに向かっている」と書かれていたからだった。
 葬儀の後、仕事先の文学学校から父の年譜を作成してほしいと頼まれる。作業を通じ、自分を語らなかった父を理解することに。遠くて近い存在だった父の、観察者としての視点が浮かび上がってくる。
 冒頭、どこかぼんやりしていた父・木辺が、読み進めるうちに輪郭を持つ。私が父を語るその語り口も「観察者」のように冷静で愛情深い。

 

これまでにあった反響

これまでにあった反響の一覧です。「○○号への反響全文」をクリックすれば、反響の全文をお読みいただけます。

79号(2025年11月1日)

切塗よしを「ラストダンス」
・文芸思潮99号 全国同人雑誌評 南崎理沙
木村誠子「さよならブラG」
・神戸新聞 2026年3月22日付 同人誌 葉山ほずみ
・樹林 小説同人誌評 46 細見和之
西田恵理子「ほな、ね」
・図書新聞 同人誌時評 2026年3月7日付 越田秀男

 

78号 (2025年6月1日発行)

「花びらの記憶」西田恵理子
・民主文学2025年9月号 支部誌・同人誌評 松田繁郎
・樹林 小説同人誌評 45 細見和之
「不機嫌の系譜父・木辺弘児」住田真理子
・神戸新聞 2025年9月24日付 同人誌 葉山ほずみ
・樹林 小説同人誌評 45 細見和之
・三田文學 2025年夏・秋合併号 新同人雑誌評 加藤有佳織
「日日是日日」高原あふち
・季刊文科101号同人雑誌季評 越田秀男
「駝鳥の見る夢」切塗よしを
・季刊文科101号同人雑誌季評 谷村順一
文芸思潮98号 全国同人雑誌評 南崎理沙

 

77号 (2024年11月6日発行)

「池に棲む人」久里しえ
・三田文学 2025年春季号 同人雑誌評 佐々木義登
・季刊文科 99号春季号 同人雑誌季評  谷村順一
「地底へ」渡谷邦
・文芸思潮96号 全国同人雑誌評 南崎理沙
・神戸新聞 2024年12月21日付 同人誌 葉山ほずみ
・三田文学 2024年秋季号 新同人雑誌評 加藤有佳織
・季刊文科 99号春季号 同人雑誌季評  谷村順一
「トマトスープとガーリックライス」高原あふち
・季刊文科 99号春季号 同人雑誌季評  谷村順一

 

76号 (2024年5月29日発行)

「アマリリス」夏野緑
・季刊文科97号 同人雑誌季評 河中郁男
「はるかかなた」高原あふち
・図書新聞2024年8月31日付 同人誌時評7月 越田秀夫
「Aハウスにて」渡谷邦
・三田文学 2024年秋季号 新同人雑誌評 佐々木義登・加藤有佳織
・樹林 第41回小説同人誌評 細見和之
「サンセットビュー」伊吹耀子
・民主文学2024年9月号 支部誌・同人誌評  風見梢太郎
「雪の匂い」渡辺庸子
・民主文学2024年9月号 支部誌・同人誌評  風見梢太郎

 

75号 (2023年11月3日発行)

「私たちは散歩する」渡谷邦
・季刊文科96号 同人雑誌季評 谷村順一
・三田文学 2024年春季号 新同人雑誌評 佐々木義登
「昏がりの果て」渡辺庸子
・樹林 第40回小説同人誌評 細見和之
・三田文学 2024年春季号 新同人雑誌評 加藤有佳織
「答えは 風の中」泉ふみお
・樹林 第40回小説同人誌評 細見和之
・神戸新聞同人誌評 2024年6月23日付 葉山ほずみ

 

74号(2023年 5月30日発行)

「水路」渡谷邦
・第18回神戸エルマール文学賞選評
・第18回まほろば賞選評
・三田文学 2023年秋季号 新同人雑誌評 佐々木義登
・文芸思潮89号 「全国同人雑誌評」 五十嵐勉
・樹林 第38回小説同人誌評 細見和之
「鼻ぐり塚で待つ-夏-」西田恵理子
・図書新聞 №3640 2024年5月25日 同人誌時評+α 越田秀男
・神戸新聞 2023年9月23日付 同人誌評 葉山ほずみ
・樹林 第38回小説同人誌評 細見和之
「崋山先生の画帖第一画 母の面影」住田真理子
・樹林 第38回小説同人誌評 細見和之
「雑踏の中にいる」切塗よしを
・季刊文科 93号 同人雑誌評 河中郁男
「オレンジ色のスカート」渡辺庸子
・民主文学 2023年9月号 支部誌・同人誌評 松田繁郎

 

73号(2022年11月2日発行)

長い写真」久里しえ
・三田文學 2023年春季号 新同人雑誌評 加藤有佳織
・季刊文科90号 同人雑誌評 谷村順一
「その週末」渡谷邦
・三田文學 2023年春季号 新同人雑誌評 佐々木義登
・季刊文科90号 同人雑誌評 谷村順一
「レッスン」切塗よしを
・樹林第36回小説同人誌評 細見和之
「白いシーツは翻る」西田恵理子
・民主文学 2023年3月号  支部誌・同人誌評 岩淵剛
「あぐねる」高原あふち
・神戸新聞 2023年1月27日付 同人誌評 葉山ほずみ

 

72号(2022年5月17日発行)

「鳩を捨てる」住田真理子
・文芸思潮86号 全国同人雑誌評 殿芝知恵
・三田文學  2022年秋季号 新同人雑誌評  佐々木義登
・季刊文科89号 同人雑誌評 谷村順一
・神戸新聞 2022年7月22日 同人誌評 葉山ほずみ
「面会時間」切塗よしを
・文芸思潮86号 全国同人雑誌評 殿芝知恵
・樹林第34回小説同人誌評 細見和之
・民主文学 2022年9月号 支部誌・同人誌評 草彅秀一
「オーロラ」池誠
・文芸思潮86号 全国同人雑誌評 殿芝知恵
「明るいフジコの旅」渡谷邦
・三田文學  2022年秋季号 新同人雑誌評  佐々木義登
第17回神戸エルマール文学賞「島京子特別賞」受賞

 

71号(2021年11月1日発行)

「ラストデイのような日」渡谷邦
・三田文學 2022年春季号 新同人雑誌評  藤有佳織
・三田文學 2022年春季号 新同人雑誌評  佐々木義登
・季刊文科87号 同人雑誌評 河中郁男
「海には遠い」切塗よしを
・神戸新聞 2021年12月24日  同人誌評 葉山ほずみ
・季刊文科87号 同人雑誌評 谷村順一
「降っても晴れても」高原あふち
・神戸新聞 2021年12月24日 同人誌評 葉山ほずみ
・季刊文科87号 同人雑誌評 河中郁男
「塀の外の空襲」住田真理子
・季刊文科87号 同人雑誌評 谷村順一
「紅い破片」渡辺庸子
・季刊文科87号 同人雑誌評 谷村順一