商業文芸誌評


この記事は2025年5月発刊予定の本誌79号『あるかいどへの反響』欄転載されます。本誌掲載に際しては万全を期しておりますが、誤字脱字等に気づかれた方は発行人までお知らせくださいこの段階でミスをご指摘いただけると誌上に反映させることができます。

 

三田文學 2025年夏・秋合併号 新同人雑誌評 加藤有佳織

住田真理子「不機嫌の系譜父・木辺弘児」(『あるかいど』78号)を興味深く読みました。

季刊文科101号同人雑誌季評 越田秀男

 夫の介護に追われるなか96歳の母が入所したばかりの施設で急死。母の生き様を回顧しながら、自分達の日日を振り返った「高原あふち「日日是日日」(『あるかいど』78号滋賀県)。主人公と夫はケーキ屋を立ち上げて実績を積み上げ、ネット販売に乗り出し、大忙しの最中、夫が病に、多発性脳梗塞、そして後遺症との格闘。リハビリは大切だが、元に戻ることはない。廃業。ディケア施設で夫はプリンを作った。夫「やっぱり難しかった。でも、美味しいって拍手してくれた」。
 ※今、生きている、という実感。

季刊文科101号同人雑誌季評 谷村順一

 切塗よしを「駝鳥の見る夢」(『あるかいど』第78号)は、悪性リンパ腫を患い、死期の迫った元同僚の「ある願い」を叶えるために奮闘する無職の「ぼく」が主人公だ。市役所庁舎の小修繕を十二年にわたってひとり担ってきた嘱託職員の「ぼく」と同僚の藤崎は、庁舎の建て替えのため「ぼく」の契約が打ち切られてもなお親しく付きあう間柄だ。末期を迎えた藤崎の「ある願い」とは、かつて暮らしていたダチョウ牧場の牧場長の娘、同い年の小夜子の裸婦画を描くこと。国立工業高等専門学校から美術大学編入のため、等身大のビーナス像でデッサンをつづけるうち、「生身の人間をモデルにして、真に美しい裸婦画を描いてみたいとの思いが抑えきれなくなった」藤崎にとってモデルは小夜子以外には考えられず、小夜子もその願いを受けいれるのだが、デッサン開始早々、牧場長に見つかってしまう。書きはじめたばかりのスケッチブックは引き裂かれ、ダチョウ牧場への出入りを禁止されたばかりか、高専の学部長の「本当に不純な動機はなかったのか」との問いに、「小夜子のおっぱいが見たかつたよ!」とこたえてしまい編入試験の話までも立ち消えとなってしまったことが、藤崎にとってはいまでも心残りであるらしい。はたして「ぼく」は藤崎の願いを叶えることができるのか。極端なまでの記憶力の乏しさゆえ、家族構成が変わったことにさえ気づかないというダチョウに重ねながら飄々とした筆致で綴られる「ぼく」、藤崎、小夜子、そして小夜子の義妹真奈美の人生はほろ苦くもあり、かすかな希望を孕んでいる。

神戸新聞 2025年9月24日付 同人誌 葉山ほずみ

「あるかいど」78号住田真理子「不機嫌の系譜父・木辺弘児」。作家だった76歳の父が急死。浴槽内での急性心不全だと診断されたが、私は父の死は自殺ではないかと考えている。その理由は、白い封筒に入っていた年賀状代わりの手紙に「人類が成長を止め崩壊に向かうグラフ「人類があと百年ほどでその後カタストロフィーに向かっている」と書かれていたからだった。
 葬儀の後、仕事先の文学学校から父の年譜を作成してほしいと頼まれる。作業を通じ、自分を語らなかった父を理解することに。遠くて近い存在だった父の、観察者としての視点が浮かび上かってくる。
 冒頭、どこかぼんやりしていた父・木辺が、読み進めるうちに輪郭を持つ。私が父を語るその語り口も「観察者」のように冷静で愛情深い。

 

これまでにあった反響

これまでにあった反響の一覧です。「○○号への反響全文」をクリックすれば、反響の全文をお読みいただけます。

78号 (2025年6月日発行)

「花びらの記憶」西田恵理子
・民主文学2025年9月号 支部誌・同人誌評 松田繁郎
・樹林 小説同人誌評 45 細見和之
「不機嫌の系譜父・木辺弘児」住田真理子
・神戸新聞 2025年9月24日付 同人誌 葉山ほずみ
・樹林 小説同人誌評 45 細見和之
・三田文學 2025年夏・秋合併号 新同人雑誌評 加藤有佳織
「日日是日日」高原あふち
・季刊文科101号同人雑誌季評 越田秀男
「駝鳥の見る夢」切塗よしを
・季刊文科101号同人雑誌季評 谷村順一

 

77号 (2024年11月6日発行)

「池に棲む人」久里しえ
・三田文学 2025年春季号 同人雑誌評 佐々木義登
・季刊文科 99号春季号 同人雑誌季評  谷村順一
「地底へ」渡谷邦
・文芸思潮96号 全国同人雑誌評 南崎理沙
・神戸新聞 2024年12月21日付 同人誌 葉山ほずみ
・三田文学 2024年秋季号 新同人雑誌評 加藤有佳織
・季刊文科 99号春季号 同人雑誌季評  谷村順一
「トマトスープとガーリックライス」高原あふち
・季刊文科 99号春季号 同人雑誌季評  谷村順一

 

76号 (2024年5月29日発行)

「アマリリス」夏野緑
・季刊文科97号 同人雑誌季評 河中郁男
「はるかかなた」高原あふち
・図書新聞2024年8月31日付 同人誌時評7月 越田秀夫
「Aハウスにて」渡谷邦
・三田文学 2024年秋季号 新同人雑誌評 佐々木義登・加藤有佳織
・樹林 第41回小説同人誌評 細見和之
「サンセットビュー」伊吹耀子
・民主文学2024年9月号 支部誌・同人誌評  風見梢太郎
「雪の匂い」渡辺庸子
・民主文学2024年9月号 支部誌・同人誌評  風見梢太郎

 

75号 (2023年11月3日発行)

「私たちは散歩する」渡谷邦
・季刊文科96号 同人雑誌季評 谷村順一
・三田文学 2024年春季号 新同人雑誌評 佐々木義登
「昏がりの果て」渡辺庸子
・樹林 第40回小説同人誌評 細見和之
・三田文学 2024年春季号 新同人雑誌評 加藤有佳織
「答えは 風の中」泉ふみお
・樹林 第40回小説同人誌評 細見和之
・神戸新聞同人誌評 2024年6月23日付 葉山ほずみ

 

74号(2023年 5月30日発行)

「水路」渡谷邦
・第18回神戸エルマール文学賞選評
・第18回まほろば賞選評
・三田文学 2023年秋季号 新同人雑誌評 佐々木義登
・文芸思潮89号 「全国同人雑誌評」 五十嵐勉
・樹林 第38回小説同人誌評 細見和之
「鼻ぐり塚で待つ-夏-」西田恵理子
・図書新聞 №3640 2024年5月25日 同人誌時評+α 越田秀男
・神戸新聞 2023年9月23日付 同人誌評 葉山ほずみ
・樹林 第38回小説同人誌評 細見和之
「崋山先生の画帖第一画 母の面影」住田真理子
・樹林 第38回小説同人誌評 細見和之
「雑踏の中にいる」切塗よしを
・季刊文科 93号 同人雑誌評 河中郁男
「オレンジ色のスカート」渡辺庸子
・民主文学 2023年9月号 支部誌・同人誌評 松田繁郎

 

73号(2022年11月2日発行)

長い写真」久里しえ
・三田文學 2023年春季号 新同人雑誌評 加藤有佳織
・季刊文科90号 同人雑誌評 谷村順一
「その週末」渡谷邦
・三田文學 2023年春季号 新同人雑誌評 佐々木義登
・季刊文科90号 同人雑誌評 谷村順一
「レッスン」切塗よしを
・樹林第36回小説同人誌評 細見和之
「白いシーツは翻る」西田恵理子
・民主文学 2023年3月号  支部誌・同人誌評 岩淵剛
「あぐねる」高原あふち
・神戸新聞 2023年1月27日付 同人誌評 葉山ほずみ

 

72号(2022年5月17日発行)

「鳩を捨てる」住田真理子
・文芸思潮86号 全国同人雑誌評 殿芝知恵
・三田文學  2022年秋季号 新同人雑誌評  佐々木義登
・季刊文科89号 同人雑誌評 谷村順一
・神戸新聞 2022年7月22日 同人誌評 葉山ほずみ
「面会時間」切塗よしを
・文芸思潮86号 全国同人雑誌評 殿芝知恵
・樹林第34回小説同人誌評 細見和之
・民主文学 2022年9月号 支部誌・同人誌評 草彅秀一
「オーロラ」池誠
・文芸思潮86号 全国同人雑誌評 殿芝知恵
「明るいフジコの旅」渡谷邦
・三田文學  2022年秋季号 新同人雑誌評  佐々木義登
第17回神戸エルマール文学賞「島京子特別賞」受賞

 

71号(2021年11月1日発行)

「ラストデイのような日」渡谷邦
・三田文學 2022年春季号 新同人雑誌評  藤有佳織
・三田文學 2022年春季号 新同人雑誌評  佐々木義登
・季刊文科87号 同人雑誌評 河中郁男
「海には遠い」切塗よしを
・神戸新聞 2021年12月24日  同人誌評 葉山ほずみ
・季刊文科87号 同人雑誌評 谷村順一
「降っても晴れても」高原あふち
・神戸新聞 2021年12月24日 同人誌評 葉山ほずみ
・季刊文科87号 同人雑誌評 河中郁男
「塀の外の空襲」住田真理子
・季刊文科87号 同人雑誌評 谷村順一
「紅い破片」渡辺庸子
・季刊文科87号 同人雑誌評 谷村順一