●タニコメ旅日記● |
― エメラルドベイズンの偉容 − レイク・ルイ―ズの朝は、久しぶりに6:30にすんなり眼が醒めた。昨夜は夢うつつの中に雨音を聞きながら寝ていたが、どうやらその雨も上がった様子で曇り空になっていた、但しまだ安心できる空ではないようだ。 こちらでは、只今の空模様からこの先の天気を推測するのは、かなり難しいが、それはカナダだからというより、私達が居るところが常に山岳地帯だからだろう、まさしく『山の天気』なんだろう。 ― メイプルシロップはふんだんに使って下さい − 朝食は何処もバイキング形式だが、さすがカナダと言わせる一つの特徴があった。『メイプルシロップ』だ。別にふんだんに使って下さいと書いてある訳ではないのだが、大きな口の大きな容器に入っているからドット出てしまうのだ。私の感じではどこのホテルの朝食でも出ているのではないかと思うが、シロップを使うために、パンの他に何時もホットケーキが出るのだろう。少なくとも、此処までのホテルは皆そうであった。コイツに遠慮なくドップリとメイプルシロップをかけて戴くのだ。 ― 行きがけに寄った紺碧のモレーンレイク − 9:00頃レイクルイ―ズを出発したシェリーのバスは30分ほどガタガタ道を走ってモレーンレークに立ち寄った。 比較的小さい氷河湖だが、昨日のレイクルイーズやボウレイクのミルキーブルーとは又一味違って、深い藍色の湖水は一層印象深かった。実際は色の濃淡による印象の違いだろうけれど、他の湖水の「懸濁水の色」に対して、モレーンレイクのは「硫酸銅液のような溶解水の色」のように見えた。 だけど、私達のパーテイ―はこんな観光地の景色に見とれている時ではないのだ。今日も300mの高度差を稼ぎながら10km余のトレッキングが待っているのだ。早々にモレーン・レークを立ち去って次のスケジュールに急いだ。 ― エメラルド・ベイズンへの道は湖畔からのスタート − ガタガタのモレーンレークロードを引き返してからは、R−1を1時間ほど走ってエメラルドレークに到着、ここはヨーホー国立公園(BC州)だ。今日のルートはエメラルドレークを半周した所からエメラルドべイズンに登り、折り返した後、湖の残りを半周して元の位置に戻る11km弱のトレイルだ。高低差は300mばかりだが、殆ど平地みたいなところから急激な登りになるから、ややキツそうだ。 ![]() 11:30頃湖畔をスタートする頃には多少青空も覗いて天気は好転したようだった、この時点ではラッキーと思って喜んでスタートしたのだが・・・・。 平坦な湖畔の道にも、両側には割合花が多く咲いて眼を楽しませてくれるが、お目当ての“カタクリ”は最早花は終わり実になっていたのは惜しまれた。湖水の色を見たり、プレジデント連山を眺めたりしながら何となく一時間ほど歩いた頃、エメラルドベイズン(Emerald Basin)への分岐点に着いた。 ここからがいよいよ本格的な登りになる。 ― トレイルはホントに人の手を加えていない − この分岐には左エメラルド ベイズンの標識があった。何故か、この標識が特別に思えるほど滅多に標識なんかを見かけないのだ。 ロッキーにきて何本かの『トレイル』を歩いたが、気がついたのは何処のトレイルでも殆ど人の手が加わっていないことだ。 登山口には割合立派な地図や説明書きがあるが、いざ登り始めると道は踏み跡だけ、勿論小川や谷には簡単な木橋や丸太橋が架かっているが、凡そ鉄やコンクリートのような人工物は見当たらない。 標識の類も余ほど紛らわしい所でしか見かけない、ましてやロープやペンキによる誘導なんかは一切ない。嘗て経験したニュージ―ランドのトラックも人工物は少なかったが尚一層徹底しているように見えた。 例えばルート上に倒木が横たわっているような場合でも、余ほど邪魔でない限リ放置していて登山者はこれを跨いだり潜ったりして通過する、どうしてもという場合でも人一人が通れる部分だけ切り取って、他の部分は在るがままにしていた。こういう点、日本のやり方は余りにも過剰に手が加えられているように思って何時も気になるところだ。 ― ベイズンはカール(氷河圏谷)のことだった − 「ところで“ベイズン”(Basin)って何?」、ガイドのオオタさんに聞くと。『盆地のような所』という返事であった。 何かもう一つイメージ出来ないままであったが、後ほど辿り付いて見れば我々の表現では“カール”“カール地形”やないか!。日本の山では氷河圏谷とも云われるが、涸沢カールや中央アルプスの千畳敷カールのように氷河が押し出した土砂や石で出来たゆるやかなスリバチ状の地形だった。 彼女にこれを言うと、そうなんです『カール』とも『サーク』とも云われる地形です、との返事だったので納得出来た。 深い松林(だと思うが)を登り始めると、いきなりから急勾配になって、かなりキツイ。割合短い距離で標高にして300mを稼ぐのだから、ちょいとシンドイ筈だが頑張ろう。 こんな薄暗い地面にも結構いろいろな花が咲いていて退屈しない。「ムシトリスミレ」や「ズダヤクシュ」などが咲いた林の中を一気に高度を上げて行くと木の間隠れの下のほうにはクリークが白い線になって流れるのが見え、プレジデント連山の岩の壁も一層際立って見えてきて景色はよくなってきた。 深い樹林帯を登りきると、勾配もやや緩やかになり覆い被さるような潅木地帯になって、ベイズンの目的地も近いことを窺わせた。 間もなくして潅木の密集も次第に疎になり、見事なお花畑が続き全くのガレ場になった所が目指すポイントであった。標高1600mのこのポイントは、周りをプレジデント連山に囲まれて、緩い偉大なスリバチ形がよく判り、正面、高いところの氷河がその偉容に一層迫力を与えている。 ― 突然のにわか雨に昼食も食い損ねて − この偉容を見ながら昼食にしようと、ガレ場に落ち着いてサンドイッチを一口かじったところまでは良かったのだが、ポツポツ来た雨が、またたく間に土砂降りになった。慌ててカッパを着たが、とても弁当どころのサワギではない激しい降り様だ。 14:10頃追い返されるようにというのか、逃げるようにというのかわからないが慌てふためいてベイズンを後にした。苦労して登った道も僅か1時間余りで湖畔まで走り下ってきた頃には雨もすっかり上がって晴れ間さえ見えていた。仕方なく湖畔でサンドイッチの立ち食い、とんだ昼飯であった。 ― ミラーレイクになった湖水 − エメラルドレイクの残り半周を巡っての帰り道も花の道であったが、最早花の種類もあらかた出尽くしていたから、ここで新たに見つけたのは鳴子ゆりに似た『オオバタケシマラン』ぐらいなものであった。 ![]() 風もなく静かな午後の、鏡のように澄んだ湖面には向かいの山が写って安らかな雰囲気をかもしていた。 ― “たえ”さんはちょっとバランスが悪いのかな − こんな湖水を巡っている時であった、私は目の前で見てはいないが、木橋で“たえ”さんが、「すってんころりん」とやったのだそうな。別段そんな「ヤバイ」場所はなかったと思うけど。そういえば、初日だったかにも「石ぐるま」か何かにのって危うく転びそうになった事があったな!。 “たえ”さんは見かけによらず一寸バランスが悪いようだ。それでもご本人は、「私はストックを持っていないからだ!やはり買うことにしよう」と力説していたが・・・・。 後日バンフに着いた夕方、夕食後通りを散歩していたら大きなビニル袋にダブルのストックを入れた“たえ”さんにバッタリ出会った。 ガイドのオクダさんに教えられた店で今買ってきたのだという、値段も日本で買うよりは安いようだった。やはり、この人は『こけた』のはストックが無かったせいだと信じているようだ。 しかし、実はそんな事をあげつらおうとしているのではない、もっとバランスの悪い人がいたのだ!。これを見た我が明子さんは、もう欲しくて仕方がない。いそいそと、聞いた店に飛び込むや、さっさと似たようなダブルのストックを買ったのであります。 そうなんです、この人は身体のバランスではなくて精神構造のバランスを欠いていて、欲望をコントロール出来ないのです。もっとも。私も付き合いにニッカ―ズボン用のハイソックス(37C$)を買ったのだが・・・。 そんな湖水めぐりをしながら、そこそこ疲れて登山口のバス停に帰ってきたのはすでに17時をまわっていた。今日も10km余り、高度差300mを6時間ばかりで歩いた。相変わらずの山岳気象に出会いながらの一日であった。 ビジターセンターでトイレを借りた後、シェリーのバスはバンフの街に向かって一路南下した。 ― バンフ・インターナショナル・ホテル − 大分遅くなって、ようやく18:40頃標高1380mのバンフの街に着いた。今日から三日間、このBANFF INTERNATIONAL HOTELに滞在する。 ![]() 今度の旅ではロブソンランチに二泊、ジャスパーアイスフィールドシャレ―に一泊、レイク・ルイ―ズ・インに一泊、そして此処バンフインターナショナルホテルに三泊と、宿の移動が少ないのは気分的にゆったりして嬉しい。 私達の部屋は向こうにカスケード山が見えるR?−217。チェックインが遅くなったので、シャワーを浴びる余裕も無くバタバタと着替えだけして19:10の待ち合わせで、外のレストランへ夕食に出かけた。 ![]() 夕食は『杉の屋』で、造りや天ぷらなどを戴いた。別段日本食に恋焦がれていた訳ではないけれど、やっぱり冷奴や天ぷらにビールというのは堪えられない。私のビールは「麒麟」。 夕食後、ちょっとだけバンフの街を散策。長さにして2kmばかりかな?と思われる大通りには、ホテルやレストラン 土産ものを扱う店など色々な店が軒を連ねているが、如何にも山あいのリゾートらしいゆったりした感じの街だ。 行き交う人は殆どが旅行客ばかり、地元の住人というのは居ないのかなと思うほど、如何にも観光客風の人たちばかりが目立っていた。 勿論私達もその中の一人ではあったが・・・。 こんな散歩の途中で、先述の“たえ”さんと出会った一件があったのです。 ― 氷のサービスがあるのは嬉しい − この旅に出て以来、初めてではないかと思うほどタップリのお湯でシャワーを浴びた後は良い眠りに誘ってくれるようにナイトキャップを少々。 このホテルは廊下に『氷のサーバーが在り』部屋に備え付けの魔法瓶のようなものでとってくれば水割り用に丁度良い。 昨日のカクテルに懲りて賢くなっているから、今日は間違いなく水割りをつくった。明子さんは私が押し付けたカクテル。 今日も充分に遊びました.。おやすみ。 |
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