●タニコメ旅日記● |
― スタンレー氷河のトレイルへ − 130km余りバスを走らせてBC州のクートネイ国立公園へ。バンフから暫くはR−1を、レイク・ルイ―ズの方向に戻るように走っていたが、30分ばかりでR−93に乗り換えた。間もなくバスは標高1680mのバーミリオン峠を越えたが、ここが州境でまたまたBC州に入ったのだ。 私達はここのところずーっとBC州とアルバータ州の境界領域を行ったり来たりしている。程なく登山口に着いた、ここはKOOTENAY国立公園。 先ほどバスが峠を越えた辺りから、道の両側の斜面は茶褐色に枯れた針葉樹や、唯の焼けボッ杭の林立する風景になっていた。広大な面積の山火事の跡だ。 ![]() 今日は、私達も森林限界を抜けるまではこんな山火事跡を登るのだそうだ。登りはじめて間もなく、眼下にスタンレークリークが眺められる高さ迄来た頃、キャッスルマウンテンの長い台形の姿が遠望できた、名のごとく「長い城壁のような姿」に見えるとの説明があったから、そう云われればそんな気もするが・・・位に思って大して気にも懸けなかった。 登山道の両側は焼けて立ち枯れた木や、真っ黒に炭化した倒木がゴロゴロ横たわって幾分異様な雰囲気だ。そんな足元には芽生えて数年位か「?」と思われる松の若木が元気そうに育ち、下草の緑が一面だ。 数十年前の火事だとの話だったが、その割には若木の育ちが遅いようにも思われた。今日はこの旅行にきて初めてかと思う位の抜けるような青空だ。 スタンレーピークとスタンレー氷河の迫力が感じられるポイントで最初のカメラ休憩。 丸木橋の沢を渡って、相変わらずの焼けボッ杭の中を暫く進むと、雪崩跡らしい平らなガレ場に出たが、この辺りは一杯に草木が生えていた。ここ迄は比較的緩い登りであったが、間もなく森林限界を越えそうなこの辺りからは岩場の、急な登りに変わった。 ― 圧倒される思いで眺めたスタンレー山塊と氷河 − かなり息を切らしてつづら折れを登り切ったところがこのトレイルの終着点だ。 丁度12:00。目前にスタンレー氷河を望み、スタンレーピークやその山塊の壮大な景観を眺めながら、暫くはそのスケールの大きさに圧倒される思いで眺めていた。空は澄み渡り、風は冷んやり爽やかだ。 ウインドヤッケを着て昼食、今日はニギリメシ弁当。今日は雨の心配も無さそうだし、快適な気分だ。今日のトレイルにも沢山の花々が今を盛りと咲き競っていた。 昨日あたりまでは、珍しい花を見つけるたびに立ち止まり、カメラに収めながらの行進で大分停滞したが、やや出尽くしか「!?」今日は割合スムーズであった。 スタンレーグレイシャーの水を集めたスタンレークリークの清冽な激流を眺めながら登山口に戻ったのは14:40であった。『雪と岩』の雄大な景観を、“これでもか、これでもか”というように頭に叩き込まれる毎日だが、今日もまた氷河と岩のピークを呆然と眺めながら、 往復11kmのトレッキングは素晴らしい天気に恵まれて楽しい一日であった。 ― ロッキーの山火事はウエルカムなんだそうな − ロッキー山脈では、常に何処かで落雷などによる自然火災(山火事)が起こっていて、毎年広大な面積の森林が焼失している。統計的には平均100年に一回は、どの森林も火災に遭っている計算だとの話であった。 唯私達が考えるのと違うのは、『森林が火事になって大変だ!』という事ではなくて、むしろこのよう事故は歓迎されているという事だ。森林が長年生育を続けると密集し過ぎる結果、地面に光が当たらなくなって動物達の食料になる下草が育たなくなったり病虫害が発生したりする。高木と下草など植生種のバランスなどを考慮すれば100年に一回位は焼いたほうが『森は長生きする』という考え方なのだ。 ![]() こういう考えの下に『自然発火の山火事は、町や人間への影響がない限りそのまま放置する』というのが現在の公園管理局の方針になっているという事だ。この考え方の延長線上で、より積極的な活用法としてプリスクライブド バーン(処方された火事)という人口山火事を起すのだそうだ。『長い目で見た森林保護の方法』として、余りにも長い間自然火災が発生していない森林地帯では積極的に火をつけて人工的な山火事を起させることもあるのだとの説明があった。 但し、この人口山火事では、広大な森林の全面焼き尽くしというようなことはせず、『動物の隠れ家』となるように森林の一部を残しながら、管理された状態で森林を焼くのだとの話もあった。 ― 山火事の別の効用も − この辺りの山は“ロジポールパイン”という松で覆われている。この松の木はアルバータ州の「州の木」に指定されている位主要な木だが、山火事とこの松の繁殖との間には密接な関係がある。小さな『松かさ』の、種を覆っている鱗片は枯れて落ちた後も極めて硬く閉じられていて40度だったか50度だったかに熱しられないと開かないのだそうだ。つまり、この「タネ」の発芽のチャンスは山火事か、極めて稀におこる異常熱波による長期の極端な乾燥時しかないという事だ。こんなところにも山火事の効用があったのだ。 ― キャッスルマウンテン − 15時過ぎ、スタンレーピークに別れを告げたシェリーのバスだったが、僅か5分も走るとキャッスルマウンテン ビレッジに着いた。キャッスルマウンテンのビューポイントという事であったが、確かにここから眺める奇怪な岩山の姿は、まるで『城砦』だった。午前中スタンレー氷河への登りから見た『城壁のような長い台形』とは随分と違っていた。 ![]() あの時は何のことか判らなかったから、「ふーん!」といった感じで大して気にも留めていなかったが、此処から見て、その意味がわかったような気がしたものだ。要は長手方向からと奥行き方向からとの両方向から見た訳だが、恐ろしく大きな山塊だ。その姿形と云い『キャッスル』とはよく名付けたものだ。二人して、立ち寄った記念の写真に収まった。 ― バンフの夜 − 今夜も宿泊はバンフインターナショナルHだが、今夜だけスケジュールに夕食が用意されていない。久しぶりに余裕のある時間にホテルに帰り着いたので、岡山の富田さん、中田さんご夫妻と連れ立って食事に出かけた。 町の入り口あたりにある日本料理店『三喜』で“酢のもの”や“すし”などの夕食に舌鼓を打った、外国で戴くにしては、なかなかのネタであった。ビール2本、チップを含めて二人分で113C$であった。三組の夫婦夫々に美味しく戴き満腹した。 ― どうにも慣れない事がある − 一つ、部屋に荷物を運び込んでくれたボーイに渡すチップ。 映画で見るように“さっと”渡せるような小銭が何時も私達のポケットには入っていないノダ!。 二つ、『枕銭、枕チップ』ともいわれるチップ。 教えられる予備知識では、どこの国でも1$だ。そもそも、この1$硬貨を手に入れるのが面倒なんだ、10$紙幣を出して、これを1$硬貨10枚に替えてクダサイというと、貨幣同士の交換は大抵“ノオ―”。結局小さな買い物をして1$を手に入れるしかないから、最初の夜まではオタオタする。 三つ、食事やタクシーなどのチップ。 10%なら「アラ!私のサービス悪かったのかしら」、15%で「お客さんは満足してくれたんだワ!」というレベルらしい、なんてなことを云うから『肩が凝る』。結局日本語でヤリトリ出来る店へ行くことになるのだ。 四つ、高率な消費税。 今度のブリティシュコロンビア州なんかは13%の外税だ、内税感覚の私などは、腹の中での計算とのあまりにもの違いに一瞬“ヱッ!”と思ってしまうのです。 ― やや疲れ気味だが − 明晩もここに泊まるものの、明日で予定のトレッキングは最終日だ。連日10〜12kmのトレッキングも明日で6日目となる。さすがにやや疲れも溜まって来たような気分だが、我が明子さんは多少強がりもあるのかも知れないが、毎日弱音も吐かずに元気一杯に動いている、有難いことだ。 それにしても、同行の皆様もよく粘ると思う。曰く、「年が年だから」とか「ヒザが悪くて」、「足の爪が傷んでいて」、下りはコタエルんです。なんとか言いながらも、一人の落伍者もなく実質6日間のトレッキングを完全にやり遂げるのだから大したもんだ。根っから身体が強いのか、鍛えているのか知らないが感心させられるばかりだ。 |
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