●タニコメ旅日記● |
― モレーン・レークトレイルのトレッキング − 最終日に選ばれたのは、紺碧のモレ―ンレークのほとりを起点にして名峰テン・ピークスの絶景を見ながら登るモレーン・レークトレイル。中腹辺りでルートを横切る谷の手前あたりからは、植生が変わって『から松』(ラーチ)が多くなる事から、このトレイルは『ラーチバレー トレイル』とも云われるようだ。 今日は少し早や発ちで8:00にホテルを出発した。天気は今のところまあまあの“曇り”だから良しとしよう。シェリーのバスは、少しは見慣れた風景になって来たR−1を快調に北上し、例のガタガタ道に入れば間もなくモレーン・レークだ。 私達は再びバンフ国立公園にやってきた。二日前に見た、紺碧の湖のほとりから登りはじめるルートでは、高度を上げるに連れてレークを囲むようにして10のピークが見えてくる。下を見れば木の間隠れに絵のように鮮やかな紺碧の湖水が見え、眼を上げれば氷河を抱いた雪の嶺や尖った岩の連なりが人々を圧倒する、言わば『借景』のようなこの姿がこのトレイルの『売り』だ。 今日は1885mの水際からスタートして、ミネステイマレイク(Minnestimma Lake.。原住民の言葉で『静に眠る青い湖』)2250m迄、標高差365m、約10kmの登り降りだからそこそこキツイだろう。 樅の木やトウヒの大木に覆われた緩やかな道を暫く進むと、突然急勾配のスイッチバックの登りに入った。聞くと、この急なスイッチバックは11回あるのだとの事だ、エライこっちゃがなー!シンドイがなー!。 突然の急な登りで息切れしたが、一時間半ほどかかって、ようやくこれを登り切った。このスイッチバックの7〜8回辺りから木の間も少し開けて、モレーン湖の紺碧の湖面が見え隠れして、シャッターチャンスを提供してくれた。この辺り(高度)の植生は「ロジポールパイン」の林立だった。 登り切ると、勾配もやや緩くなり植生も大分変わってきた。カラ松の割合が増し、うすみどり色が眼にやさしかった。ここら辺りから急に花が多くなった、白色の「岩ひげ」に混ざってピンクの「つがざくら」がちらほら、「アネモネ」の花後の毛の房もちょっと変わった姿だ。 11時頃、小さい谷を横切る丸木橋の平らな所で休憩。ようやく此処にきてテン・ピークスが見え出した、向かって右から10,9,8、・・・1までクッキリ見える。何時もはガスが多く、こんなに綺麗に見えるのは稀だとガイドのオクダさんの話であった。空気はかなり冷んやりしている。 ― 明子さんは『山岳監視員』のカッコ良さに惹かれて − ![]() 再び登りはじめて少し行った所で、降りてきた二名の『山岳監視員』に出くわした。ガイドのオクダさんに2〜3質問し、「近くにクマがうろうろしているから注意して下さい」というような事を云っていたようだった。 監視員のユニフォームに身を固め、背中にリュック、小脇にライフルを抱えた格好よい姿に、我が明子さんはすっかり“イカレテ”しまったのでありました。 その後も事ある毎に『カッコ良かったねー!?』と言っていました。そんなに惚れたのなら付いて行けばよかったのに・・・。日本の女性は好きだが、「おばん」はノーサンキューと言われるのが落ちやデー。 確かに背の高さが2mもあろうかと思われる中年と若者らしい二人の大男は、私達一行の老いぼれた姿とは比ぶべくもなく格好良く、こっそりとカメラに収めたのでありました。 森林限界を越えた辺りからは、この旅の最後を飾るかのように華やかな光景が展開された、そこは別世界であった。『地を見れば』。一面のお花畑だ!。 ![]() 山には違いないが、割合なだらかな丘陵地帯にはピンクや白の『ツガザクラ』『アオノツガザクラ』や『イワヒゲ』の大群落が密生して花を咲かせ、『アネモネ』の白い花や咲き終わった房毛の大群落も見られる。 何万坪、いや何十万坪あるか知れない程広い丘陵に咲いた、これほどのお花畑は日本ではちょっと見られないスケールだ。 ― 国情に合わせた計測単位があるのだ − こんな時に思ったのでありました。何万坪だの何十万坪だの、やはり狭い国の日本人的な発想やなあ。本当のところはどれ程の面積があるのか判らないが、この広大な面積を測るのに“坪”なんてーな、みみっちー単位では間尺に合わない。カナダではさしずめ、何万エーカーと計測するのだろうよ。 12時頃、目的のミネステイマ湖に着いた。“静に眠る湖”は、ほとんど透明に近い小さな湖であった。標高2250m、風が冷たい、気温はかなり低いようだ。 ウインドヤッケを着て、今日もニギリメシ弁当。 『正面の稜線を見れば』。 標高2600mのセンチネルパスだ、両側を削ぎ落としたような峠だ。両端を高いピークに挟まれたセンチネルパスは名前が示す通り、“見張り”の峠だ。 2年前にニュージーランドで経験した、壁を這い上がるようにして越えたミルフォードトラックのマッキノンパスの景色とよく似ていて、当時の情景を想いだしたのだった。もっとも、マッキノンパスは多少のブッシュは生えていたが、此処センチネルは僅かに緑の草つきがあるだけだ。 当然といえばその通りだが、マッキノンパスの標高は1154m、この峠越えは2600mなんだから。そんな中、遠くからでもスイッチバックの道が良く見える。 このスイッチバックではないが、今日は途中の急勾配で11回のスイッチバックを登ってきたのだ、マッキノン峠越えも奇しくも11回のスイッチバック(ジグザグ)を喘ぎながら登ったんだった。 『向こうのピークを見れば』。 一層大きくなった10のピークがパノラマをつくっていた。10,9,8と右の方に見えるピークは岩峰鋭く、左の方?2〜3辺りに抱かれた氷河も迫力を増した。せっかくこんな大パノラマが展開されているのに一枚の画面に収まらないのが悔しい。 ― 植生の分布と木の種類の見分けかた − 森林限界近くの高度では「から松」が多く、一寸下がれば「ロジポールパイン」1880m近い湖畔近くでは「樅やトウヒ」というように分布していた。ロッキー山中で植林した訳ではないから、適者生存の法則に従って育っているのだろう。 オクダさんに教わった種別の見分け方。 木肌では、「つるつるの木肌は樅の木」、「松のようなウロコ状の木肌はトウヒ」。葉の形状、「握って柔らかい樅の葉」、「握るとトゲトゲはトウヒ」。 ― そして全ては終わった − 15時前、足音も軽く急な下りを一気に降りてきた。数々の思い出をつくったトレッキングも、心地良い疲れを残して全てのスケジュールを終わった。帰りのバスでは6日間全てのコースを案内してくれた現地ガイドのオクダさん、オオタさんが最後の挨拶。 ![]() 私達も、楽しい山行をさせてもらってありがとうの気持を込めて拍手し帰り着いたホテルでは握手で別れを告げた。 ― アルバータ牛のステーキ − 今夜はこの旅行最後の夕食ということで、アルバータ牛のステーキをご馳走になった。相変わらず私はビール、明子は赤ワイン。ステーキは赤身肉の割には柔らかく、美味しく全部平らげた。 お土産なんかは、一昨日の夜、明子サンが大分頑張って買ったから今夜は別段の買い物もなかったが、大通りを散策するついでにちょっとした買い忘れを補って早目にホテルへ引き上げた。いつもの事だが、最終日の夜は大抵大騒動だ。 明朝の荷物出し時間は早い、どうしても今夜中には送り出す荷物のパッキングを終わっておかなければ安心して寝られないからだ。ところが、これもなかなか一筋縄では行かないのだ。あれを入れようか、これはリュックにしようかと一汗かいてようやく収まりがついた。 やれやれと安心して、今夜はワインで最後のナイトキャップ。二人とも元気に過ごせたことに乾杯!。楽しい旅をありがとう、と、乾杯!。こうして、心安らかにバンフの夜は深けて行ったのでした。 |
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