● エッセイ ●
春まだ浅き道東の宝捜し旅?

〔馬づらにへばりつく〕
 北海道南岸の門別町から襟裳岬にかけての国道235号線、336号線は右側に太平洋を臨みながら の絶好のドライブロードである。そして、よく目につくのが競走馬の牧場で、それぞれの牧場ごとに 産出したサラブレッドたちの名前が大きな看板に書かれて道路わきに立っている。
 途中のとある牧場で車を止めると動物好きの子供らは、たちまち牧場の柵によじ登った。馬も 人なつっこいのか、めったに人が来ないので人恋しいのか、すぐさま5、6頭がすり寄ってきた。 子供達は、はじめは近づいてきた馬の大きさに若干ひるんで、せいぜい長い顔の鼻のところをなでたり していた。そのうち、敵が従順でとてもやさしいということが分かったのか、段々大胆になり、鼻なで から首なで、胴なでになり、とうとう剛が顔の部分にへばりついてしまった。馬のほうもまんざら 悪い気がしないのか、それとも『まあ子供のことだから』許しているのか、へばりつかれたままじっと している。子供の心臓の鼓動を鼻で感じ、純粋な生き物同志の友情を交わしているのかもしれない。 人間同士のしがらみや葛藤でうすよごれた大人にできる芸当ではない。子供が動物を飼いたがる気持ちは、 過去に、あひる、牛、にわとり、猫、犬と飼ってきた、というより”友達や労力”として生活の一部であった 私にはよく分かるのだが、転勤族の家族には動物の友達を持つことは非常に難しいことなのである。

 〔穂別町で初日泊〕
 旅行初日は穂別町営キャンプ場で夜を迎えることとなった。ホクレン(北海道農業協同組合連合会)発行の 黄色い表紙の地図をたよりに穂別町から、さらに17キロほど北上した国道274号線沿いにキャンプ場は あった。
 思っていたより立派なキャンプ場で、入口には大きなログハウスがあり、そこが管理棟と売店、食堂で あったが、建物の中には管理人一人がいるばかりであった。
 「あのうー、今日ここで泊まりたいんですけど、車の中で寝ますのでどっか駐車場の隅っこを貸して ください。ここの施設は一切使いません」などと『おねげーしますだ、お代官様』風に言ってみた。 40歳前後と思われる細おもての管理人は「トイレは?」と聞き返してきた。『ウッ、トイレときたか』 と思ったが『そのへんでします』とは言えず「まっ、トイレくらいは使うかもしれませんが」と答えた。 細おもてはオクターブの高い声で「いいですよお、まあ去年の夏は料金頂いてたんですが」と、こちらの 期待通りの言葉を返した。
 

(次のページへ)

backボタンの画像
[前頁へ]
topボタンの画像
[ホームへ]
nextボタンの画像
[次頁へ]