● エッセイ ● |
〔三石(ミツイシ)町はコンブの町〕 二風谷(ニブタニ)から沙流(サル)川沿いに下って太平洋に出たところが門別(モンベツ)町で ある。ここから襟裳岬までは約130キロの『右側ずっと太平洋の大海原』の景観が続く。左手の 山側には相変わらずサラブレッドの牧場が目につく。 三石町のあたりで海岸が大きく開けているところがあって、行楽客が車を止めて海辺に降り、何やら 楽しそうにしているのが見えた。我々も車を止めて、岩盤の浅瀬が続く海辺に降り立った。磯の香りが した。浅瀬の小石をひっくり返すとトンボのヤゴのような虫が『アレー恥ずかしい』というように、 それまで暗やみの天井にへばりついていたはずが、いきなりハレの舞台に立ってスポットライトを浴びて しまって逃げ惑っている。毛ガニの脱皮したカラがあちこちに、波に打ち上げられていた。 どこかのおばさんが長靴を履いて小さな包丁で海草を切り取っていた。「なんですか、それ」と 聞いてみると「マツモだよ」と答えた。マツモは干上がった岩に20センチくらいの丈でくっついていた。 ちょうど金魚ばちにたなびいている『キンギョモ』のような海草だ。少しつまんで口に入れてみた。 海草はどれも同じようにショッパイ味がするので、違いと言えば舌ザワリとか噛みごたえといったもの であるが『ん、これは味噌汁のネタに使えるな』と直感した。 もう少し沖に出ると波打ち際はコンブの大群であった。波の満ちひきに漂っているコンブの一本を つかんで引っ張ってみると、長さは2メートルほどもあった。先のほうが少し腐ったように変色し 端が欠けていたが、薄茶色の美しい帯状のコンブは、なんとなくやさしい感じでモロ肌をさらしていた。 私はそのモロ肌の一部を少し噛みとって食ってみた。ショッパイ味と一緒に、磯の香りが口に充満した。 『こいつもイケるぞ』と思い、そのコンブを”グイ”と引っ張ると簡単に根っこから取れてきた。 ちょうどいい具合に、近くに風が運んできたスーパーのビニール袋があったので、このコンブとさっきの マツモをつんでぶち込んだ。この旅行の後しばらくしてコンブの種類に『ミツイシコンブ』があることを 子供の見ていた図鑑で知った。
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