第3章 診療の進め方

目次へ  第2章へ  第4章へ

3−1 心掛けたい、ことがら

(1) 安全な、場所で行う。 安全第一、周りの人にも気配りしよう。
   机の上に、敷き布を敷く。 机に傷をつけない。部品の紛失を防ぐ。
(2)  故障内容を調べて記録する。
   いつ、どこで、どうしたら、故障したなども、記録するとよい。
(3)  ケースにネジや部品を、整頓して入れる。
   ネジの大きさ、長さ、場所別にケースを分けると間違えない。
(4)  分解前の、状態を記録しておく。
   部品の場所、向きなど、組み立て方が、判るように。
(5)  分解は、慎重に、記録を取りながら行う。
   部品が外れたり、バネが飛んだり、配線が切れたりする。
(6)  正常な部分を壊さない。 修理の基本

3−2 受付作業

受付作業は、その後作業に影響するので重要です。次の事項に注意してください。
(1) おもちゃ診療所案内の内容を説明し了解を得ておくこと。
  傷つく場合・有料の場合・入院の場合・責任の範囲・診療対象
(2) おもちゃ1点ごとに、カルテ1枚を使用してください。
(3) 氏名・住所・電話番号は必ず書いて頂いてください。返却時必須
(4) おもちゃの名前・症状および付属品を保護者と一緒に再度確認してください。
(5) 預かりの場合、おもちゃの名前・付属品の記入を確認して預かり証を返却してください。

3−3 診断・治療作業

原因と症状の確認
(1) 最初に問診で故障原因・内容を確認する。
  1) いつから・どうしたら・どうなったのか聞くようにする。
  2) 正常な時の状況を確認しておく。
(2) 外観チェックで破損個所の有無を確認する。
  1) 分解方法の確認(ネジ止め・勘合・接着・・)
  2) 再組立時の状態を記憶(デジカメによる記録を推奨)
(3) 電気使用のおもちゃは、電源(電池・ACアダプター)の確認からする。
  1) 電池の種類・入れ方・外観をチェック(リモコンを忘れないように)
  2) 電池劣化・電池ボックスのチェック(汚れ・腐食・変形)
  3) ACアダプターは、指定品かどうかと、出力電圧をチェックする。
(4) リモコン付きの場合は先にリモコンの良否を確認する。
  リモコンの作動が確認できたら、本体の故障を疑う。
(5) 以下は分解をして確認する。
  1) 分解しながらの目視確認
   ・部品全般/脱落・破損・変形
   ・電気配線/切れ・外れ・接点の錆・変形・基板割れ・汚れ
   ・可動部品/脱落・破損・ギヤ割れ・ごみの絡まり・
  2) 故障の頻度の多い個所から確認すると効率的である。
   ・モーター使用のおもちゃは、モーターの回転・モーター端子電圧・基板
   ・スピーカー使用で、一部のボタンで鳴らない場合は、スイッチ・接点・基板
   ・鳴らない場合は、最初にスピーカーのチェック・電圧・基板
   ・光るおもちゃで、一部のボタンで光らない場合・スイッチ・接点・基板
   ・まったく光らない場合は、光源両端の電圧・光源の断線・配線・基板

*特に症状の確認では、思い込みを排除して誤診を防がなくてはならない。

分解の基本
(1) 分解時に現状以上に傷つけないこと。
(2) 傷をつけないと分解できない場合は事前に了解を得ておくこと。
(3) 分解用工具、特にドライバーはネジの形状・大きさにあったものを使い頭に損傷をあたえないようにする。
(4) 引っ掛け用爪や隠しネジの位置を確認し無理にこじ開けないようにする。
(5) 取り外したネジは太さ・長さを確認して取り付け場所がわかるように保管する。
(6) 部品を外す前に部品どうしの位置関係を記録し、再組立が間違えなくできるようにしておく。
(7) 短い配線は、分解中に引っ張られ切れることがあるので、あらかじめ印しを付けて外しておくのがよい場合がある。延長コードの利用
(8) 分解は一度に全部せず、故障個所を推理し部分ごとに分解・チェク・組立を繰り返す。

部品の交換
(1) 同等の部品で交換するのが原則(無い場合は同等以上のものを使用
(2) ハンダ付け部品の交換は短時間で行う。
(3) 大きさが違う部品に交換する場合は、がたや干渉が無いか取りつけ状態を確認する。

接着による補修
(1) 使用材料に合った接着材を使用する。
(2) 接着面はあらかじめきれいにしておく。
(3) 固まるまで動かさない。
(4) 力のかかる場所で折れた部品の接着は、補強する。(針金・当て板

ハンダ付けによる治療
(1) ハンダ付け作業は短時間で行い、部品に熱による損傷をあたえないようにする。
(2) プリント基板では、ハンダブリッジに注意する。
(3) プリント基板上の部品を外す場合は、ハンダ吸取り器を使用するとやりやすい。

再組立時の注意
(1) 再組立前に動作確認をする。
(2) 分解時に外した配線や部品は忘れずに元どおりにする。
(3) 締め付け時に配線類を挟まないように注意する。
(4) 接着や縫製による場合は、目立たないように。
(5) 隠しネジで開いたシールの後処理をする。
(6) 外観検査をして、不安全個所がないか確認する。(針金の先・バリ・有害物質

3−4 完了テストと返却

(1) 付属品・外観に異常が無いか確認後、使用状態で最終確認をする。
(2) 故障内容・故障原因・治療内容をカルテに記入・説明する。
(3) 使用方法の間違いで故障した場合は、適正な使用方法をアドバイスする。
(4) 有償の場合は、代金をもらう。
(5) 預かり証と引き換えに返却する。

3−5 よくある失敗事例

 初心者がおこしがちな失敗事例です。自分なりの対策を考えて実施してください。
 第2章の2-3治療時の不注意対策を行っていれば、防げた事例もあります。

どこも壊れていなかったのに分解してしまった。

 「原因:電池が入っていなかった。故障内容をよく確認しないで治療を始めた。思い込みによる失敗例で、少し慣れてきた頃に起こしやすい
新品の電池に入れ替えたが動かないと言ってきても、電池が消耗しているだけの場合が多い。また、複数箇所に電池が分散収納されている場合に、一部の電池のみ交換した場合など。
 下記、失敗事例「クレーンゲーム」の場合も同じ。

+字ドライバーがフィットしない。
 
穴の中のタッピングを外すのに穴に入る太さの#1のドライバーを使用しているのにフィットしなかった。プラスドライバーの先端太さ比較図
 「原因:十字ドライバーの大きさ(#No.)は軸の太さではなく先端の形状で決まる。#2のタッピングであった。プラスチック製おもちゃのタッピング取り付け用穴は、通常の#2(6mmφ)ドライバーが入らない細い穴の場合が多い。

組立て時にタッピングが緩かったり、きつかったりした。
 「原因:1箇所だけ短い(細い)タッピングが使われていたのに気付かずに別の場所に使用した。」

分解途中に部品が外れ落ち、組み付け方が判らなくなった。
 「原因:ケースまたは部品で押さえられているだけの部品がある。特にバネは飛び跳ねて行方不明になるので要注意。」

リード線が切れてしまい接続先が判らなくなった。
 「原因:細いリード線が使われている場合、すぐに半田付けの個所から切れてしまう。」

勘合部の爪が折れてしまった。
 「原因:プラスチックは古くなると劣化して硬くもろくなる。」

 新たな失敗をしたときは、原因を追求し、対策を考え、記録し、その情報を公開して、情報の共有化を図ることにより全体の技術向上に役立てるようにする。

失敗事例「クレーンゲーム」
故障の症状:クレーンが下まで下りずに、上昇を始めるので商品を掴む事ができない。
対策:
クレーンの巻き上げ位置が高すぎ(天井につかえていた)と考え、分解して巻上げ位置を下げた。結果、少し下がるようになったが、途中で戻ってしまった。
クレーンの上下のリミットは機械式となっているが、リミットまで行く前に時間で下がる距離を電気的に制御するようになっている。この距離が短くなったのだとわかった。
新品の電池に替えたら、多すぎるぐらい下がるようになった。電圧が低下するほど移動量が減るようだ。原因は、電池の消耗であった。修理の定番、まず新品の電池で確認しよう。
*前後、左右のリミットはリミットスイッチによるので、電池電圧には影響されない。

目次へ  第4章へ  このページの最初へ
編集 津おもちゃ診療所