うちのブサイク  
うちの「ブサイク」
 わが家で犬を飼い始めたのはずいぶんと昔で、戦後まもなくからと記憶している。ジャックというアカ犬だった。
 それから40数年、犬はわが家の一員となり、表札にも年賀状にも愛犬の名が出てくる。
 9年前、ビーグル犬まがいの「ブッチー」がまだ元気なころ、3月の終わり頃だったか、一晩中、子犬の鳴き声が絶えないことがあった。
 朝、鳴き声のあたりを見に行くと、生まれたばかりの子犬が、蔵の周りの溝に落ちて上がれないでいる。
 空き家になっている隣の家の、作業小屋に6匹の仲間がころころいた。
 そこへこの子犬を戻してやり、帰ろうとすると、ころころが足にまとわりついてくる。
 それから時々、子犬たちを見に行くのが楽しみになった。今思うと、無視すべきだったのかも知れない。しかし、無視していれば、わが家の愛犬「ブサイク」は存在していなかった。
 娘が「ほしい」という。「ブッチーがおるやんかぁ」と、理由にならない断り方をする。しかし、本心はみんながほしかった。「一番かわいいのを1匹だぞ」と、受け手の勝手な基準で選んだ。結局、蔵の溝で一晩中鳴いていた白い子犬が、一番かわいかったらしい。
 ころころと駆け寄ってくる子犬の中で、一番後から仲間をかき分け、私たちの手をなめに来る子犬だったから、名前は「ボス」と簡単に決まった。
 どうしたことだろう。丸々として鼻も黒く光って、真っ白だった子犬が、1週間ほどたったころから、丸い体は細長く、毛は短くてぬいぐるみのような真っ白だったのに、少し茶が混じり、ふいふいと長い毛が目立ってきた。
 さらに1週間。口の両側から長い毛がまとまって下がり、黒い鼻が剥(は)げたように赤くなり、目の上には眉毛のような影ができた。なんてブサイクな犬なんだ。これが名前を「ボス」から「ブサイク」に変えた所以(ゆえん)である。
 ブサイクの名に、最初になじんだのは娘だった。娘が散歩に連れ出すと、家にいても恥ずかしかった。「ブサイク、こっち、こっち、これ、ブサイク!」と、近所の人たちに恥ずかしくて....。
 毎年4月は犬の登録と注射月であるが、このときも困った。「名前は?」と聞かれると、はっきりと答えても、1回では判ってもらえなかった。やっと判ってもらえると、必ず「かわいそう」の言葉が返ってきた。
 だが慣れは恐ろしいもの。愛情を込めて「ブサイク」と言えるようになり、毎年の私の年賀状に、家族の一員として登場している。
 昨年、全国特定郵便局長会の写真コンテストで入賞したモデルが、ブサイク。東海の局長会から、編集委員が「今年の干支にちなんで、新年号の表紙に是非」と、機関誌の表紙にもブサイクが登場した。
 そしてついに、「みえ随想」にも....。おぬし、やるな。

(中日新聞・みえ随想 平成6年4月5日掲載) 

餅の好きな山の神  野沢温泉とスキー  春はウキウキ  ぷくぷく温泉  ランチタイム  挨 拶