第2章〜挑戦 



 《小豆へ1歩》 
             
      〜野に在りて 野男也の言い分が 有るや吹雪の中を征く〜


       規制や慣習に藻掻きながら・批判も浴びながら『俺には目指すものが

            有ると唯々一点を見つめて農を業に確立するべく模索をして居た頃、

            小豆を知ったのが2015年7月中旬のこと。

            京都府南丹農業改良普及センターの新人技師から

            『瑞穂大納言小豆の機械化播種実演をするから来場しませんか?』って

            誘いを戴いたのがきっかけとなった。

           その模様は・・・

            草だらけで年初1回の耕しもしていないほ場に、トラクターがロータ リーを

            回転させながら、装着した播種機を稼働させ進んでいく。

          通り過ぎたら ― 播種完了 ―。

           なんとも味気なく・面白くも無く・耕作美は俺には響かなかった。

   
《口説き上手な課長》

           その実演感想を役場の農林振興課長に話したときのこと、

            『瑞穂大納言小豆は町の特産で、昔は町内で65ヘクタールも耕作されていた。

           現在の耕作面積は10%も届かない3ヘクタールぐらいで、町としては

             20ヘクタールの復活を目指して生産者へ呼び掛けている。

           樂農庵もなんぼか遣ってくれへんか?』

           人望・熱意・口説き上手な当課長に俺は協力する事にして、2016年40aから

           瑞穂大納言小豆栽培を始めるに至る。

 
《動けば風神の如く 発すれば雷神の如し》

             翌 3月までの俺は『農地』探しに奔走した。

        まさに【動けば風神の如く 発すれば雷神の如し】の行動であったと振り返る。

        大口を狙って農業公社・京都府中間管理機構・農業委員会・そして

        町農林振興課 と連日農地の情報は無いか? 無いか? 無いか?って

             情報探しに奔走した。

        そのときに人望・熱意・口説き上手な課長から

         『あんたの燃える熱意は本物やな。農地の良い情報をあげる。

        可・否は知らんが可ならばしっかり瑞穂大納言小豆復活に手を貸してや。

             あんたなら遣ると思うわ』

         このときの1.8ヘクタールに従来からの0.4ヘクタールを加えて2.2ヘクタールを

             手中に出来たもののもうひとつの難題を抱えてた。

 
《軍資金》

        2017年の栽培予算400万円が 無い 無い 無い・・・

       金融機関は高齢者には貸さない・銀行は農業には貸さない、交渉して

      も腹が立つ だけと・・・

      『家の抵当は白地にしておいてくださいよ』 と妻は言う。

      ある日届いた郵便物の中に『京都府農業応援隊説明会の案内』が混じっていた。

      "こんなのがあるんだ" って軽い気持ちで参加すると、

        『融資の相談可』と聞い て即相談を起こすと、日本政策金融公庫への

      紹介を普及センターが行うとの内容 に俺はガックリ。

      昔の国金が百姓に貸すはずが無い との概念で、どうしよう・・どうしょう・・

      早く解決しなければ堆肥の散布が遅れる 遅れる。

      瑞穂大納言小豆栽培も、《 夢に人偏が付いて儚く 》終わるのか 終わるのか 

      ギブアップか。

      諦めては居なかったが、憂鬱な日々を過ごして焦る日々の俺が居た。


      そんなある日の事、日本政策金融公庫京都支店より当方へ訪問通知の

      電話が入った。

      頃は2017年5月、里の鯉のぼりも降りていた時期である。

      政策金融公庫課長と課長補佐が来宅。

      会談の内容が中盤過ぎから『融資有りき』の言の葉が端々に窺える

      ように為っていた。

      俺はストレートに聴いてみた。

       『それって融資を受けられるんですか?』

       『いえいえ要望に添えるよう検討するってことです。決定ではないですよ。』

       『でも振り返ったら融資の申し込みもしていない。普及センターに相談をしただけで

             お二人がお見えになり、融資有りきの様な話をされるって事は・・・?

       そうか!普及センターからの意見書とか・人物鑑定書とかが送られているんでしょ』

      否定をして見せてはもらえなかったが、憶測は当たっていると今でも確信している。

      追って連絡しますって事で去って行った政策金融公庫。

      日も置かずに電話で『印鑑持参で来所請う』通知。

      その一瞬は言葉で言い尽くせない感無量の歓びで有った。

      ありがたう!日本政策金融公庫。

      ありがたう!京都府南丹農業改良普及センター。

   
《規模拡大序章》

      人に恵まれて瑞穂大納言小豆の規模拡大序章をスタートさせることが

      出来た初年のこと。

      逢う人会う人から・・・『2へクも出来るか?無理やで。』

       『失敗するのがオチや・止めとき止めとき』 と周囲雀声。

      だが南丹農業改良普及センター等行政は規模拡大に理解と注目で

      応援態勢を敷いてくれた。

      小豆栽培も順調に推移してあとひと月で刈取を想定していた あの日






  2017年10月21日台風21号・・・

     隣を流れる土師川の氾濫で小豆畑を1mも被って一面が濁流に。








          獣害避けネット1,100mは無残にも流され、水が引いた後に残っていた

           のは大小の 流木とゴミ・ゴミ・ゴミ・そのゴミを被った小豆の姿。

          日が暮れてもゴミの山を視て立ち尽くしていた。

          近所の農家には『此処は5年に一回ぐらいは水が浸くで』って聴いては居たが

           1年目にして災害に遭うとは・・・。   あと1ヶ月で刈取だったのに・・・  

          ゴミを被った小豆は枯れていくのだろうか・・・

          この小豆は熟していくのだろうか・・・     赤いダイヤが・・・赤いダイヤが・・・。

          数日何も手に付かず落胆 落胆 落胆。

          そんな俺に 『早くゴミを撤去して殺菌剤を散布しないと、カビや病気が

          発生しますよ!』って  叱咤激励してくれたのが普及センターの新人技師だった。

          そうか!赤いダイヤは、俺の赤いダイヤは全滅では無いんだ!

     その日から俺は早朝から黙々と日が暮れても雨が降っても,ゴミ撤去・ゴミ撤去・

            ゴミ撤去。  応援3名を凌いで・刈取時期に入っても、ゴミ撤去・ゴミ撤去。

      洪水で倒れても生きている小豆を手刈り40%・機械刈り60%。

      刈取を終えたのは降霜直前の12月4日だった。

      洪水で畝が流され、根が洗われて  しがみついている半裸状態の赤いダイヤは

            40日も生きて居てくれた。

《収支に挑戦》

          収穫目標2,200kgが1,100kgの災害結果だったが、俺は未だ終止符を打たなかった。

     農を業とするには利益を生まなければ業は継続出来ない。

     収穫50%減を如何にして利益に繋げるか。

     融資をしていただいた日本政策金融公庫にも、世話になった普及

     センター新人技師にも、義理を感じて俺は考えた。

     穀物卸業者を探し出して販売交渉に行くと・・・・・

     社長曰く〜〜 瑞穂大納言っ!!! ホンマかいな?! 

      (・・・・沈黙が続いて)

     欲しい!  欲しいのは山々だがなぁ・・・・

     実は生産者から直接仕入れると、全農に睨まれて割り当て量を減らされるンや。

     内緒で買わせてもろうてもバレた時が怖いしなぁ。

     農協制度も変わる様子やけど・・・・今年は悪いけど見送らさして。 ごめんな。

        思案を練った末に市場の端末を狙って単価アップを画策。

     和菓子店をリストアップしたのが83軒。

     行く先・行く店で、小豆のみの言葉では売れず、瑞穂大納言小豆と言葉を出すと

         店では興味を持たれ菓子職人さんには手に入る歓びを聴いたりしながら完売に成功。

     このドタンバ営業で日本一の赤いダイヤ瑞穂大納言小豆が如何にブランドものかを

          身を以て知り、我が赤いダイヤに自信と惚れ直す契機に為ったことは大きな

          経験であり、小豆王へ向かう決意を認識したことは終生忘れない。

      洪水被害での収穫50%減の赤いダイヤは収支を30%減に留めてシーズンを幕とした。

 
《規模拡大2章〜災害》

          2018年ほ場面積は3倍の6ヘクタールと拡大して、6月中旬には梅雨対策として、

          3回目の耕運畝は、高く・額縁水路は排水口へ繋いで7月20日より始める播種準備の

          日々。 瑞穂大納言小豆の規模拡大第2ステージに血沸き肉躍る日々を送っていた
    
         『あの日』、

     
2018年7月7日 西日本7月豪雨








〔2018年12月大晦日ー日記より〕

         7月20日の播種に向けて頑張り抜いてのぅ、ようやく今までに誰も挑戦

         しなかった大規模播種の準備終了間際に・・・・  

        あの「西日本7月豪雨」 が襲ったんじゃよ。

        ほ場の畝上を150pも洪水が襲い、耕運3回済の砕土の為もあり田の表土が大量に

      流されてしもうたんじゃ。 

       馬鹿が肩を落として居たのを見た者もあると聞いた。

       普及センターの担当技師から朝、いの一番に心配の電話が入ったが落ち込んでいた

        そうじゃ。

        だがな だがな! しかし しかし しかしじゃ!

        ここからがあの馬鹿モンの凄いところを見たんじゃよ。 

        いや〜実に実に 見事 に凄かった!

        災害当日の夕刻にはレンタル屋でユンボ2台 2tダンプ2台 イター照明3台

        発電機2台を配置して3人が朝早くから夜遅くまで, 日付が変わっても、まだまだ

        明け方まで握り飯を頬張りながら 『播種 播種』って念仏のように唱えながら畑表土を

     4日ほど運んでいたんじゃ。

        播種まで10日ぐらいしか残ってなかったからのぅ。

        いやぁ あれを見たワシだけじゃないぞ、京都府も町も 『なんと!こないに早く

        復旧するとは!』    驚嘆の声が役所や村中に染まってのぅ、大変な"時の人"に

        なったんじゃ。

     それであの馬鹿にワシはナっ「ようそこまで気張れるのぅ?」って

        問い掛けたんじゃ。

        するとじゃな あの馬鹿がワシに吠えよったんじゃよ。

        おっさん・オッサン 『俺には小豆に挑戦させてくれた普及センターの技師 と

     日本政策金融公庫への義があるんや。播種も出来んかったら恩知らずの男、

        義に命を掛けなかった男と成り下がって末代まで恥を残す事になるさかいな。』

     それにな おっさんよう聴きや

    『俺には種不足の8kgを集めてくれたお婆婆11人の応援魂が取り憑いて居るさかい

        に絶対に俺は負けられへん!挫けられへんのや!

       褌を締めに締め切って遣ってるんやで〜!』

     いやぁ〜ホトホトあの馬鹿には感心させられたぞな。見直したぞな。

     ありゃ馬鹿じゃねぇ。 本物の男じゃった。 命を懸ける一人前の百姓じゃったぞな。


      ところがじゃ・・・・

      小豆の花が咲いて そして散り、たわわに付いた大莢の実が太り出す最中の事じゃった。

      災難がまたまたその男に襲いかかったんじゃ。

   
2018年10月1日 台風24号。






     この未曾有の洪水で2mも小豆に被ってのぅ、小豆は流されるわ、

     表土もまたまた流されるわ、残った小豆はゴミ被りの姿になるわ、

     それはそれは悲惨を極めた状態じゃった。

     この災害でも あの男はのぅ

      『被っとるゴミを早よう取り除かんと小豆が死ぬぞ〜!』言うてのぉ

     声を枯らして若い衆に吠えまくっとった。 
 
     男3人が小豆のゴミ取りをやりだすとじゃ、村人連中が誰彼となく2人が3人になり

            してのぅ 了いには8人がゴミ払いの終わりまで手伝ったのじゃ

     まっことヤットコサの状態で収穫まで辿り着いたんじゃ。

     村人は誰ひとり応援報酬の受取りを拒否したと聴いたぞ。

     男の心にデッカイデッカイ【義】が刻まれ、村の全田畑70%を借用して

     いる為にも美しく守り続けて【義】を果たす決意じゃろう。

     あの男の事じゃ 【義】の褌をキリリと締めて未知へのデッカイ夢を掴み

     取る事じゃろうのぉ。

 
《規模拡大3章〜未知普請》







       2019年には目標の8ヘクタールを超えて9ヘクタールのほ場を確保した。

     耕作規模は年々未知への挑戦が続く。
 
     播種期間が7/15〜7/31、刈取期間が11/20〜11/30。

     播種については5日繰り上げて行うが、未だ梅雨開けはしていない。

     朝は5時開始で20時迄の作業を行って何とかしている。

     問題は刈り取り期間である。

     11月20日迄に赤いダイヤ特性の熟成豆に仕上げられるか?

     夜露を浴びた濡れ莢小豆をコンバイン刈りするには作業効率が落ち、乾燥効率も

           ダウン。理想的には、夜露が乾く午後より刈り出して7反、乾燥機へ搬入して24時間。

     9ヘクタールの刈り取りを計算すると実稼働23日が必要となる。

     雨天日を除く場合である。

     遅れて12月になるといつ降霜が来るか・いつ来るか・・・

     降霜に当たれば品質は大幅ダウンとなる。

     人員増・機械増・施設増へ舵を切れば現場の"未知"は解消するが、

     経営には大きな "未知" が潜んでいる。

     14ヘクタールを目途に判断をしなければならないと考える。

                     
人は決断を迫られるときがある
                      途方に暮れても、案内板は無い
        地平を切り開くように、クロスロードで自ら歩を進める
                   未知を克服し夢をたぐり寄せる為に
                                              未知への挑戦は続く